ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

変化に対応できる人と、変化に対応できる組織

http://www.flickr.com/photos/79834099@N00/8189522286
photo by John Kroll

だいたい社内に2-3人タバコ仲間がいて、仕事によっては毎日一緒にタバコを吸いに行きながら、色々な雑談をします。時に仕事の有益な情報を交換し、時に自分が煮詰まっていることのアイディアをもらったり。ほとんど仕事の話をしていることが多い。PJTベースで動いていると、嫌でも毎日一緒にいるので、話のネタが尽きるくらいです。
1ヶ月くらい前のこの日も、いつも行くYさんとタバコに行きながら仕事に関する雑談をしていました。
その時に、彼との話が面白かったので、今回のエントリーで紹介したいと思います。



Yさん「今日さぁ、○○のところの組織変更と人事異動について関係者に説明したんだけど」
おれ「はいはい、あの件ですね。揉めたんですか?」
Yさん「揉めたほどじゃないんだけど」
Yさん「とある部下がさ、すげー勢いで「ころころ組織変更されて困る!」と、文句を言ってきたんだよね。」
おれ「まじかー、苦笑。大変ですね。というか、普通の会社で、人事異動に文句言うとか左遷ものですねw」
おれ「それを言えちゃう会社の空気もそれまた、らしいっちゃ、らしいですが。笑」
おれ「結局、どう答えたんですか?」
Yさん「もう俺も呆れちゃってさー。もう発想がジュニアというか、わかってねーというか。」
おれ「そういう場で、その発言をすること自体のリスク(自分の評価にキズが付くこと)すらわかってないのは滑稽ですね。何がやりたいのか、発言の意図が、全然わからん。」
Yさん「そうそう。2歩先のこと全然考えてねーんだわ。そういう人は目の前のことだけなんだよね。」
Yさん「でさ、仕方ないからこういう話をしてあげたら、周りにいるやつらにも結構刺さったんよ。」

"IT業界、と大上段な業界論を語る以前に。
おれら本部は、所詮、100-300人の世界にいるわけさ。
『事業環境の変化スピード』はものすごい速いし、
『会社がその変化に対応するため』に組織構造を柔軟に変えて行くことなんてことは、
日常だし、必要不可欠だ、と個人的には思ってます。
当然、変えすぎは良くないことは理解している。


たださ、よく考えてみ?
ずっと変わらない会社って世の中にあるかのね?
いずれ、どんな会社、どんな場所にいても、必ず変化は起こるものじゃん。
要は、いま言ってくれたことは、スピード(頻度)の問題でしょう?


だから、組織変更自体に反対するのは、ミスリーディングで。
変化に対応すること自体を否定してはいけないよ。
大前提として、変わることが当たり前!なんだよ。”

そりゃそうだから、みんな理解してくれだよ。全然大丈夫だったんだけど。
でさ、

じゃあ、どうやって対応するのか?
みなさん不安に思う所があると思うのだけど、
個人的なアドバイスとしては、


自分が変わらないこと。これが、一番大事。
変化に対応するためには、自分が変わっちゃいけないんだよ。


え?逆じゃない?と思うかもしれないけど、変化に対応しよう、と思うんじゃなくて、
確固たる自分の信念や核となるものを作ることの方が、変化に対応できるんだよ。
これはおれがすっごく学んだところ。
例えば、俺は「子どもの絶対的な信頼」と「嫁は裏切らない」って2つのことは絶対変えない、と誓っている。
何でも良いから、そういうのを持つのが先だよ。
不安に思うのは、その核となるものがまだ出来上がってないからなんだよ。"

って話してやったんよ。イイ話っしょ?」


おれ「(子どもと嫁のくだりは、ロジック違うんじゃねぇか・・・)」
おれ「イイっすねー(笑顔)」
おれ「その場所で全力尽くして成果出すことが最優先ですね。
変化を先取りしようとして、いろいろ手を出しちゃう系は、ダメなタイプだよね。」
Yさん「そう!それそれ!要は、スキルアップっていうやつほどダメなんだよ。」
Yさん「目の前のことをきっちりやるからこそ、次の機会が生まれるわけで。その中で、スキルが磨かれるものじゃん?」
Yさん「昔、人材派遣の会社にいたときに、よくエンジニアの面談とかしてたんだけど、まさにそれでさ。
変なスキルアップばっか頑張ってるやつほど、出来ないやつだったね。
逆に、目の前の仕事を完璧にやってるやつほど、すげー伸びてたよ。」
おれ「そうね。そこ難しいけど、いまの仕事を全力でやってても伸びない人もいるじゃん?」
おれ「たから、課題認識、自己分析が、もっと重要じゃないかと思ってるのよね。ちゃんと階段登らないと意味がないからさ。」
おれ「部下を見渡してもさ、自己分析が間違っている人も、本当に多いよね。前職でもやっぱそうだった。」
Yさん「そうだねー、1つ1つ自己解決して、評価を積み上げてかないと、伸びないね」
おれ「そういう意味では、前職の時は、若い人の方が良いなぁってわかりましたね。伸びシロがあるし、素直に吸収しやすい。」
おれ「中途で35超えると、自分の土台ができちゃってるから、前職のやり方を引きずって、アンラーニングできないんだよね。もろい土台の上には高い城はつくれないから。」
Yさん「そうかもね−。」



変化に対応するために、自分は変わらないことが大事。


これは名言ですね。
よく読むと、何を言ってるのか、さっぱりわからない日本語なんですが。笑
僕なりに解釈すると、2つのことを言ってるんだなと思いました。


1つは、表面的な解釈で、
「変化に対応できる人は、変化を求められたときにも
動じないだけの信念や核を持っている人」


もう1つは、会話の中で僕が反応してたように、
「変化に対応できる人は、先を予測して動いているんじゃなくて、
任された仕事に全力で取り組み、成果を積み上げて、
自分を変えるまでもない状態にしている人」


ということなんだろうなと。
で、ここまでは、言い古された個人のスキルアップやキャリア論。
彼と別れた後に、悶々とこの会話を思い出しながら、思考を進めました。


組織として変化に対応する、ってのは、どういうことだろうか?


まず、何か新しい潮流をつかんだときに、どのように対応するのか、を考えてみたい。
新しい環境変化が与えるインパクトによって、採り得るオプションは、大きく3つあります。

  • 既存の組織フレームの中で対応できるもの
  • 潮流に対応すること自体をミッションに負った組織を新設して対応するもの
  • 組織全体を大きく変えなければ対応できないもの

どの選択をするかは、会社の状況によって大きく異なります。
学習する組織や、マクロ・ミクロの組織論で、様々な学術研究がなされている分野です。
ただ、実際に、自分がスピードの速い業界の中に身を投じて、戦略や組織のドライバーを握ってみて。
大事だなぁと思うのは、組織設計の際に制約条件として論じた「変化に対応することを厭わないミドルマネジメントの質と数」、そして、「意味のない組織変更を繰り返さないための、組織変更に関する健全な規制(牽制)」と、「徹底した討議&意思決定をドキュメントとして残すこと」です。
組織変更のときに検討したオプションには、それぞれ一長一短、メリット/デメリットがあります。
デメリットもきちんと討議しつくして、それでも1つのオプションに決めるこの過程で、変化に対応することのむずかしさ、限界を毎回感じるようになりました。


まず1つは、
「前提」を議論しつくすのが難しい。
可能であれば、組織変更の「前提」をきちんと関係者間で合意しておいて、「前提」が変わったタイミングでまた検討すればよいのですが。。。
後付で、こういう意味があったね、というのが出てくるものです。実際にやってみて、物事を動かしてみて、想定した通りのインセンティブが働く部分もあれば、ここはも少し、こっちにするべきだったなぁと後からわかるのです。
そこから組織変更の見えなかった意味合いや、無意識に前提としていた条件に気づきます。


2つ目に、
環境変化の「変化量」の見極めが難しい。
特に、既存の組織フレームの中で対応できるラインの見極めが難しい。
小さな変化であれば、懐の深いミドルマネジメントの下でスモールスタートしつつ、これ以上スケールしないタイミングでチーム1つくらいなら、ポンと作ってしまっても良さそうなものです。
基本、上記のようなやり方で初期的に対応を考えます。
ただ、もっと大きな環境変化が訪れたときには、得てして、弊害が顕在化するまで、大きな組織変更の検討には取り掛かることができません。変化を先取りするなんてもってのほかです。
50人、100人の組織ならそこまで対応力がないので、すぐに大きな変更にも着手できるのですが、なまじ人数も増えて組織力が付いてくると、いまのフレームで対応できるかな、と過大に見積もってしまうものです。



次に、Yさんとの会話を思い出すと、「変えないこと」が変化に対応するためには大事、という話でした。
組織について同じことをあてはめようとすると、変わらないだけの組織力、を持つことが重要なのだろうと思います。


変わらない組織力、って何なのだろう?


働く人たちの組織変更への「慣れ」は侮れません。変わることへの抵抗が少なければ少ないほど、スムーズに新しいミッションに邁進できる体制が整います。逆に、変化に対応することを拒絶する人が多いほど、順応が遅くなります。
組織や人は、何もなければ、安住をの望み、変化に対して防御反応を示すものだという前提を持っておく。
なので、常日頃から、人事異動でジョブローテーションをしたり、厳しい環境に敢えて人材を投じて、慣れさせておくことが必要です。


また、大きな組織変更の際には、スタッフレベルの人まで変更の経緯や、新しい組織の意味を「納得」しておくことが、次の変化に対する適応には重要です。
全員が満足するような人事なんてものは夢物語です。必ず一部の人は、仕事を取り上げられたような喪失感を感じてしまったり、同レベルと見ていた人の抜擢への嫉妬心が生まれたりと、なかなか納得してもらえないケースもあります。こうした不満を持つ人は、周囲の人へもマイナスの影響を与えるので、必ず時間をとって納得してもらうか、最悪の場合は、隔離することが必要です。
トップの情報発信や対話を尽くすことに加えて、ミドルマネジメントレベルでメンバーをグリップしておく必要があるのです。


そして、何と言っても現状の業務を通じて、業務遂行能力を高めておく。
つまりは、スタッフレベルの底上げ、ミドルマネジメントの育成をしておくこと。


日本企業で大きく業態転換をしながら、成長を続ける代表例は「総合商社」です。
この10年だけ見ても、商社の人材育成や組織のトランスフォームは、見事なものがあります。
いち早く、事業部制を導入し、人を海外に派遣し、従来の日本企業のグローバルサポートモデルから、投資会社への変更を行いました。その過程で、独自のリスク&リターンの評価手法を編み出し、投資対象も資源から物流、不動産、化学、食品へと水平展開しています。


商社をロールモデルとして、発想を広げてみましょう。


商社は、情報ビジネス、だ。と言われるほど、世界中に情報網を張り巡らし、ビジネスチャンスを探索し続ける姿は、憧れ、ですらあります。
組織が変化に対応するためには、「情報」も重要なファクターであることがわかります。
また、商社に働く人たちと議論をすると、リーダー、課長クラスの「視座の高さ」「視野の広さ」を実感します。平気で、M&Aという非連続なオプションの議論ができますし、新しいマーケットへの参入機会を色々な観点から検討して、自分なりのアイディアを持っている人にも出会いました。
独立採算の意識も植えつけられています。売上やコストに対するセンシティビティが総じて高い。自分の所属する事業部の業績をよく見ています。
「事業意識」が高い。こうした情報は、オフィシャルな会議体で共有されているだけでなく、社内の横のつながりで瞬く間に出回っています。出向してしまうと情報が一気に減るらしいですが、本社にいる人たちは、○○という案件があるらしい、xxの案件は渋いなどなど、隣の部署の話まで良く知っています。
P/LやB/S、CFをよく見ていれば、会社や事業が目指す方向がよくわかります。こうした情報を良く見ている証拠でしょう。
また、常に事業責任を問われ続け、明確に、信賞必罰の制度が運用されていること。資源バブルでふいた部署は、当然、ボーナスも大きいし、万年赤字事業はボーナスも少ないです。


なるほど。「情報」「視座」「事業意識」「報酬制度」、この辺がポイントになりそうだということはわかりました。
僕の中で、まだ答えは見つかっていないので、これ以上、話をまとめるつもりはないのですが、
組織1つとっても、いろいろ考えることがあるんだなぁと思ってもらえれば幸いです。本当に奥深い。
興味がある人は、以下のような本を参考にしてみてください。


学習する組織――システム思考で未来を創造する

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