ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

社長の仕事は、「会社を理解すること」

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photo by Cayusa

少し間が空きましたが、第四部です。今回は経営者の仕事について、色々考察を書いていきたいと思います。
第一部「良い会社づくりとリーダーシップ」
第二部「組織設計について」
第三部「リーダーについての戯言。」
マネジメントと日々議論するために、さまざまな分析を走らせ、これまでに三段腹、アツい議論を交わしました。
本気で会社の生き死にに頭を悩ます経営者の熱量と対峙できる機会は、そうそうありません。非常に濃密な時間を過ごしています。
その中で感じられるのは、経営を担う役員間での『器』の差です。『器』といっても、いろいろあると思いますが、「我」を微塵も感じさせない、会社の経営責任を負う一個人としての視野の高さ/広さ、懐の深さを指します。
別に、器の差の善し悪しは特に論じたいわけではありません。
僕の問題意識としては、この器ってのは、なかなか一朝一夕で大きくできるものではないぞ、って当たり前のことなのですが、会社のマネジメント層にそれが求められたときには、真剣に向き合わねば、さすがにいつか会社が潰れるぞとマジになるわけです。
折しも、この記事を書き上げる数週間の間に、「mixi赤字転落」⇒「DeNA組織再編」⇒「GREE希望退職実施」と、立て続けに大手企業のニュースが流れ、業界内の慌ただしさが世間に周知されることになりました。こういう時こそ、社長の胆力が試される時です。
PRESIDENTの記事:役員に「昇りつめる人」の小さな共通点【2】に、こんなことが書いてありました。

人間力■小手先の政治力より、辛酸を乗り越えた強さで勝負できるか
人間の器が「仕事力」も重要だが、トップになる人の資質の根本は「人間力」につきる。どんな苦労でも心の糧にできるかどうかで人間の器の大きさは決まる。
「限界状態を若い頃に1度は経験している。それも数年の時間軸で。そうでなければトップに立てても部下に優しくなれません」
逆境を乗り越える力は、最終的に「胆力」であり、精神的体力である。
「逆境を逆にチャンスと見なす柔軟性と、どん底から這い上がる強さがある」
「危機に直面したときに人間の本質が出る。知性だけでなく危機をバネにして改革できる『腹の力』が備わっています」
こうした「人間の器」の大きさは、生まれつき決まっているわけではない。
人生の辛酸を嘗め、それを乗り越えてこそ大きくなるのである。

役員に「昇りつめる人」の小さな共通点【2】:PRESIDENT Online - プレジデント

この連載が良くも悪くも面白いので、たまに読み返しているのですが、人間の厚みや胆力は、辛酸を乗り越えた結果として大きくなるものだそうです。(役員は米粒ひとつまで綺麗に食べる、とドヤ顔で書いている連載なので、その程度の浅い話だと思ってもらえば十分ですが。笑)
今回のエントリーでは、この曖昧な「器」ってものに対して、僕なりの考察を書いてみます。



『器』がよくわかるのは、限られた情報・限られた時間の中で、意思決定に至る過程において、思考プロセスが垣間見える瞬間です。
卑近な例で言えば、資料を説明されて意思決定を問われたときに、「いま見て決めろと言われても難しい」と逃げる態度を取るのは、小さいですね、と。また、十分な思考や議論がないまま「エイヤッ」で決められても、それは単なるスキル不足ですね、と。資料に細かな突っ込みを入れ始めたら、資料のクオリティが低いのか、往々にして、それも意思決定者のスキル不足ですね、と。
「器」の大きさはなかなか見えにくいものですが、小ささは些細な発言や態度で透けて見えてきます。
逆に、部下の不始末や、会社としての決断を部下に言い渡さなければいけない嫌な役回りを遂行する際には、「器」の大きさが際立って良く見えます。当然、実行の前段では、自分も意思決定の当事者として頭を悩ましていることも往々にあります。


(自分で例を書いておいてなんですが、わかりにくいかな。。。)


意思決定の会議体で、長となる人たちの様子を見ていると、「器」云々というよりも、「意思決定のスキル」や「長としての周囲への見せ方の巧さ/拙さ」のように見える部分も多くあります。
ただ、そのスキルや巧拙を支える胆力は紛れもなく見え隠れしています。逆に言えば、支える器の方がしっかりしていないと、スキルも上滑ってしまうからです。
こうして観察する立場なので気楽なのですが、少し想像力を働かせると、「意思決定の場は、一身に注目を集めながら、自分の思考プロセスを開陳しつつ、そこにリーズナブルさ、フェアさ、真摯さを求められる、とても厳しい場所だなぁ」と常々思います。
決定を迫られつつ、信頼関係も同時に構築しなければいけない、そんな場です。取締役以上であれば、社外取締役のお眼鏡にかなう振る舞いや対応が求められます。


では、なんで意思決定がそんなに難しいんだ?と。
現場のことがわからなくなってくること、いつまでも過去の成功体験に縛られること、この2つだろうと思っています。言い古された事ではありますが、やはり、真だな、と思う訳です。



「現場のことがわからなくなる」
上にいけばいくほど、自分にあがってくる情報は中間管理職のスクリーニングでそぎ落とされ、インプット量が減ってゆきます。優秀な部下を持つほど、エッセンスのみを上手く抽出して、時に、敢えて情報を制限しながら意思決定しやすくしてくれるものです。
なかでも、社長は、思っている以上に孤独です。実は、日常会話や業務の中で他部署の状況を熟知しているいる課長/マネージャークラスが一番会社のことを理解していて、社長が一番よくわかっていない、という典型的なマネジメントのジレンマです。


「過去の成功体験に縛られる」
そんな状況下で、自分の限られた情報で判断をしなければならないために、どうしても過去の成功体験や偏った情報と過去の解釈に依拠して、物事を議論し、判断していく傾向が強くなります。
意思決定会議のその場の情報だけで決断してゆくには、過去のバイアスが入らざるをえない訳です。
その境目をギリギリ見極めて、わからないことを素直に聞き受けつつ、建設的な質問や戦略対話ができるか否かが、まさに『マネジメントの力量』だと思います。全てを把握する規模を超えたときに、権限移譲を進めつつ、公式な会議体以外にアングラでも情報を収集しながら、会社の状況を把握し続ける努力が必要です。



実態を目の当たりにしてみて、社長の仕事は「決めること」とよく言いますが、「会社を理解すること」ではないか、と最近思うようになりました。後先考えずに決めることだけなら、アホでもできるので。
だれも全社のことを俯瞰して見ていない状況では、非常に危ういと言わざるを得ません。気づけば、野心ある役員に一大帝国を築かれていることならザラにあるでしょう。もしかしたら、結託して謀反を起こされるリスクなんてものも大きくなります。謀反まで行かずとも、不健全な倫理観でもって進められるビジネスを見落としてしまうかもしれません。
どこの会社とは言いませんが、倫理にもとる事件を起こして、社会を騒がすような会社では、往々にして社長含めて意思決定含む組織のガバナンスが効いていません。通常、大企業ともなれば、リスク管理やガバナンスがきっちりしているのでよほど大丈夫なのでしょうが、それでも経営企画部門や人事部門、システム部門の長が事実上のグリップを利かせて、社長の腹心になり、「情報供給」と「健康診断」役を担うのが組織の常です。先のエントリーで軽く紹介した『リーダーシップの本質』にあるインフォーマル・リーダーシップを最大限活用するのもありでしょう。


こういう不健全な態度を取ってしまう人が上に立つと、非常に面倒くさい。
どこの会社にも1人はいるもんなのですが、明確な人事で以て、徐々にそうした不満分子や自己顕示欲の強い危険分子は排除されてゆくのが大企業です。
人事の人は、本当に感心するほど社員1人1人のことをよく見ています。
巧みに野心を隠しつつ、年次を重ねながら丸くなり、色々な修羅場を切り抜けて、人間の厚みが出た頃に、要職に登用するわけです。ザ・島耕作、いや、サラリーマン金太郎かな。そういう世界。
ここまでが一般論です。


実際に起きてることは、そんなに単純ではありません。
仮に、ものすごく利己的な欲求の強い人が社内にいたとしても、会社が思いっきり業績不振では彼らも何もしようがありませんから。そこまで理不尽なことや、自己中心的なことばかりをやっている訳ではありません。
天下取るにせよ、「会社が良くなること」を思う気持ちは共通なんだろうと思います。なるべく自分の思い通りに、なのか、なるべく客観的に正しい方向に、なのかスタンスの違いがあるだけです。
それが時として、同じ方向を向いているはずなのに、些細な意見の対立を生み、組織の壁ができ、無駄な政治が働き始め、不健全な組織カルチャーが広まってゆきます。ここまで書けばわかるでしょう。
これは、人の問題ではなく、「権限移譲」の典型的な失敗例です。
原因は、「情報の偏在」にあります。
誰もすべてを理解している訳ではなく、断片的な情報同士で空中戦を繰り広げることになる、お粗末な議論が平気で繰り広げられてしまう。腹を割って話すことで解決するのは、そういうことです。互いに持っている情報をオープンにして、意見をぶつけ合いましょう、ということ。
毎回いちいち腹割っているわけにもいかないので、それらを解決するためには、「権限移譲」と「情報の集約」は必ずセットで実行せねばなりません。考えもなしに移譲を進めれば、それは独裁国家を生み、マネジメントの対立を起こす構造的な要因となります。


人の問題と捉えると、経営者が目を光らせる、という意味で「会社を理解すること」が重要になります。
また、権限移譲の問題と捉えると、無駄な対立を生まないためにも、経営者や意思決定者のもとに「情報が集約されること」が重要で、そういう意味で、「会社を理解すること」以上に大事な仕事はないのだろうと思うのです。



さらに言うと、この理解するプロセスを通じて、『器』が大きくなってゆく。
先に書いた通り、「権限移譲」とともに、「情報の集約」を行い、正しい情報が、正しいタイミングで、適切に集まる状態にしておく。
加えて、会社を理解するプロセスには、色々な修羅場や、頭の痛い話を、怒涛のようにかき分けることが付きものです。単に、机に座ってレポートを読んだり、会社中を歩き回って社員にウザがられるだけでは情報量も、理解度も、全然足りません。
悩ましい問題を1つ1つ丹念に検討して、不安を覚えながらも意思決定をして、組織を動かし切る。
この実行までのプロセスを通じて、初めて会社のことが理解できてきます。「情報連携が怪しいな」、とか、「この部署は優秀な人材がそろっているな」、「上司や会社へのロイヤリティが高いな」、「モラール(士気)は高いが、モラルが低いな」とかとか。普段接しない人たちと、仕事を通じて感じることが山ほどあります。


冒頭、業界全体が追い風から向かい風に変化する中で、経営者の胆力が問われる時期と書きました。
「器」は意思決定の場や、悩んだ末の意思決定を実行するときに露呈するものです。
これはスキル云々では解決できないほど、簡単なものではありません。
仕組みとして、権限委譲とセットで情報集約を進めることが必須です。
さらに、危機的状況を打開した経験を積み重ね、「会社のことを理解する」プロセスを通じて、「器」を磨いてゆくものなのだろうと思います。
以上がまとめです。



数か月前にだいたいのことはわかった、と勘違いしていた時期もありましたが、ありゃ「会社の管理」って側面では通用するレベルであって、同時に「事業を拡大する」を実現するためには、まだまだ片手落ちだったなぁと、最近は反省モードに入っています。
あくまで、いまの自分目線で、会社を影から動かすことはできるかもしれませんが、それだけだということに気付いたからです。
『器』に関しての問題意識は、まぎれもなく、自分に最も当てはまることであって、昔にも増して、早く歳を重ねてしまいたい、とはやる気持ちが芽生えてきています。
強制的に器をでかくしないといけない環境に身を投じるか、地道に教養を広げつつ人間力を鍛える道も本気で考えねばなぁと。
今回、考察した通り、スキルセットや能力開発というよりも、受動的に育てる類のものなのだろうと思うので、それなりの時間を投下せねばならないと理解しています。どうやったら意識的にあと2年でモノになるか。

勉強が必要ですし、練習しなければ身につきません。「人を使う」というのがマネジメントの本質ですから、「人間と社会を知る」ことに尽きます。人が集まればチームができ、そこに社会ができるわけですから。

人間がどんな動物でどんな知恵を持っているか、どんな構成要素で社会が成り立っているかを知り、人を使うことに対するケーススタディをたくさん勉強することですね。小説を読み、歴史を学び、社会を学ぶ。「人がどんな場面でどう人間を使ってきたか」を脳みそに入れておかないと、本番の仕事では真似できませんよ。

(中略)
人間は「人に会う」「本を読む」「旅をする」という3つでしか学べないと、僕は常々言っています。この3つから人と社会を学ばないと、マネジメントの力は身につきませんよ。赤ちゃんにマネジメントはできませんよね。

ライフネット生命 出口治明さんに聞く、最強チームの作り方【前編】

出口さんのインタビュー記事が素晴らしすぎて、前回に続き、またこの記事を引用させてもらいました。
特に「人」や「旅」の経験ベースで育つものだとすると、ひたすら「環境」を変えて幅を広げると同時に、経験の「密度」を上げ深さや濃さを追求しなければならないのだと思います。今回のエントリーにも通じるものがあります。
土日が楽しみになるようじゃダメだな、と気合を入れなおしつつ、既に見えている山があるので、年末まで突っ走ります。
王道本に加えて、最近読んだものを紹介して終わりにしたいと思います。



ドラッカー名著集1 経営者の条件

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経営の教科書―社長が押さえておくべき30の基礎科目

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経営者になる 経営者を育てる

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アメーバ経営

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ジャック・ウェルチ わが経営 <上>

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