「物事を、きちんと、深く、考えられる」人になるために
先日の記事"2009-12-21 学生と議論したり、プレゼンを見ていて思うこと"の続きで、「物事を、きちんと、深く、考えられる」人になるための思考法について書いてみようと思います。思考法というような仰々しいものではなく、「正しい悩み方」を実践し、確実にステップアップしていくためのヒントくらいに捉えてもらえると良いかもしれません。
前回の記事では、
- 物事を、きちんと、深く、考えられることの方が圧倒的に大事だ
というメッセージに対して、常日頃から漠然とした悩みや不安を持っていた方々から一定の反響を頂きました。(特に学生さんには良くも悪くも刺さりが良かったようですね)言わずもがなですが、当blogを読まれて、悩み始めたのであれば、そこからがスタートです。これからどのように、自分の頭の使い方を変えるべきか、徹底的に悩んでみてください。
ただし、漠然と悩んでいるだけで改善するはずもなく、新年の抱負よろしく、次の日には別の悩みに取って代わられ、いつの間にか忘れ去られてしまうことが容易に想像できます。そして、次に思い出すのは、痛い目に会った時というオチまで目に浮かびます。
そこで、少しでも悩みの解決に向けて参考になればと思い、「深く考える=深く悩む」方法論について、即興的に言語化してみたいと思います。
要旨
- 思考法のHow to を記述することは非常に困難。本記事では、「(ある種)“当たり前”の思考法を身につけるために明日からどう動けば良いか」について順に論じていく
- そもそも、「深く考えること」とは、ロジカルシンキングで注目されるMECEや因果関係(帰納法、演繹法)、ロジックツリー、イシューツリー、仮説思考等のテクニックを駆使して、思考の網羅性を担保しながら、果てしない未知の暗黒海を掘り進める作業と定義する
- また、「深く考えられる」ということは、上記の作業における自身の思考に関する「網羅性の欠如」や「掘り方の浅さ」への「畏れ」や「不安」に対して、悩むことができることと同義である
- そして、「深く考える」思考法とは、上記の作業における「恐れ」や「不安」に対して、自問自答を諦めずに、とことん考え続けることである
- この思考法を身につけるためには、「1. まずは知識をつなげてみることから始めてみる」。「2. 次に、ゼロベースで考えてみる」。「3. 最後に、そもそも論を深堀りして考えてみる」という3つのステップを踏むことを提案する
思考法を記述するということ
人それぞれ思考のクセがあるのは当然のこと、仕事の“できる”人というのは、企業秘密にしているオリジナルの思考法をお持ちのことでしょう。雑誌「Think!」なんかで毎号のように、「コンサルタントの思考法」なんて似たような記事が、手を変え品を変え投稿されるのは、その企業秘密を知りたい・身につけたいというニーズが一定存在するのを示していると同時に、言うは易し行うは難し、という言葉がぴったりの領域だなぁと常日頃より思っています。
それは当然といえば当然で、日本で屈指の優秀な人が、1日20時間、毎日10年間、頭をフル回転させて、辿り着いた境地を、平易な言葉で説明しているだけなのですから。そんなに簡単に真似できるなら、誰でも一流コンサルタントになれます。
また、人によって、脳みそのスペック、得意な思考法・苦手な思考法もあれば、その思考法を外部から脳みそにインストールする際の方法も違います。いくら同じ事を、別の言葉で何通りにも説明しようが、それを120%理解した上で使いこなすレベルに到達できる人は皆無でしょう。それだけ、他人の思考法を真似ることは難しいものです。かく言う自分も、さまざまな本や雑誌、議論、雑談を通じて、尊敬する諸先輩方の思考法を少しでも真似ようと日々努力していますが、牛歩の感を否めません。(逆に、それが思考法の“本質”だと思います)
残念ながら、私自身は、思考法を手取り足取り教えてくれる「教科書」のレベルにまで、体系化することに成功した本を、寡聞にして存じません。確かに、フレームワークや思考の振り方、アイディアの湧き上りやすい環境等のTipsは数多く存在しますが、その多くが表面的なテクニックの説明に終始しています。また、たとえば、書籍「アイディアのつくり方」は、アイディアを生み出す過程とアイディアそのものに関する洞察を、見事に言語化した素晴らしい本だと思います。しかし、これもあくまで「考え方」の本質をついたTipsの域を出ません。How to ではないのです。
それは、再現性のあるような思考(思いつきではない)の大半が言語に規定されていること、その言語を生み出す脳の働きが各人大きく異なること、言語を生み出す脳の働き方についても検証しきれていないこと、等の理由があるのでしょう。
本エントリーで、私なりの思考法をご紹介することも検討しました。が、所詮、前述の記事同様に、コンサルティング・ファームでは当たり前のことを言語化したに過ぎない二番煎じの記事になると思われます。また、これも前述の記事同様に、読まれては即消費される(誰も身につけられない)実質無価値な記事になることも懸念されます。諸先輩方が成しえていない「教科書」のような文章化も到底実現できるように思えません。
そこで、記事を読まれた方にとって、なにかしらバリューを発揮するために、ここは一旦、「こうした“当たり前”の思考法を身につけるために明日からどう動けば良いか」について順に論じていきたいと思います。(自分の思考法の言語化については、別の機会にトライしたいとは思っています)
「深く考える」ということ
さて、前置きが長くなりましたが、肝心の「深く考える」思考法について。
巷で話題となって久しいですが、「論理的思考」や「ロジカルシンキング」「問題解決思考」「クリティカルシンキング」・・・と呼ばれる類の思考法があります。*1一般的には、ビジネスマンの基礎スキルとして、古くから根強い研修ニーズのあるテーマですが、コンサルタントの生命線とも言える立派なスキルでもあります。究極的に極めることができれば、日本を代表する企業の経営陣との議論にも立派に太刀打ちできるばかりか、一撃必殺のレベルにまで達することのできる素晴らしい/奥深い脳みその使い方です。
ここで敢えてご紹介したのは、「深く考えること」と「ロジカルシンキング」が、非常に密接な関係にあるためです。
「深く考えること」とは、ロジカルシンキングで注目されるMECEや因果関係(帰納法、演繹法)、ロジックツリー、イシューツリー、仮説思考等のテクニックを駆使して、思考の網羅性を担保しながら、果てしない未知の暗黒海を掘り進める作業です。
学生さんに陥りがちなのが、この網羅性が担保で来ていないこと、掘りが浅いこと、この2点に尽きます*2もちろん、私もまだまだその点で修行中の身ではありますが、少なくとも網羅性が担保できていないことへの気持ち悪さ、掘りが浅いことへのもどかしさを十分自覚しているつもりです。それは、決して、この1年半のコンサルティング経験によるものではなく、教科書的な浅い思考に疑問を感じ続ける態度によるものです。(下記引用)
インターネットや本で聞きかじった人の意見や、教科書に書かれたことを流用するのは、大学の試験においては良いかもしれません。現に、僕も何度も使った手です。
”2009-12-21 学生と議論したり、プレゼンを見ていて思うこと”
しかし、根っこの部分では常に疑問を感じる自分を見失わないで欲しい。
前回の記事でお伝えしたかったのは、学生さんが上記2点について、何の疑いや畏れ、不安を持たない態度に対する警鐘だったのです。それに対して、「試験の場なので、取り繕っていただけだ」という反論がありましたが、議論に値しません。表立った態度に示せと言っているのではないのです。質問をしながら、議論を深堀ることによって、思考の態度として上記の2点が欠落してしまっているのが、手に取るようにわかるのです。
同様に、思考の態度として、きちんと、こうした畏れや不安を持っている学生さんも一瞬でわかります。なぜなら、そうした学生さんは、取り繕うことの愚かさを十分自覚できているために、質問の答え1つとっても、慎重に言葉を選び、論点の抜け落ちた穴に落ちないよう気をつけながらの答え方をしているからです。或いは、論点の抜け漏れに対しても、程度の差こそあれ、切り返すことができます。*3
多少刺激が強いかもしれませんが、「学生」という言葉を、「社会人」と置き換えて読んでいただいても構いません。万人に共通する事柄だと思っています。
そして、ここで何度も出てきたような、自身の思考に関する「網羅性の欠如」や「掘り方の浅さ」への「畏れ」や「不安」に対して、悩むことができることを、「深く考えられる」ことと同義である表現しました。
「きちんと、深く、考えられる」ということは、「きちんと、深く、悩むことができる」と同義です。
”2009-12-21 学生と議論したり、プレゼンを見ていて思うこと”
相当はしょっていますが、そういう意味合いで書いていました。わかりにくくてすみません。
ちなみに、ただ漠然と「悩むこと」と、ぐるぐる回りながらも思考を進めて「考えること」は似て非なるものです。
「深く考える」思考法とは
さて、「深く考えること」に関する洞察はここまでとして、その思考法について。
前述のとおり、
「深く考えること」とは、ロジカルシンキングで注目されるMECEや因果関係(帰納法、演繹法)、ロジックツリー、イシューツリー、仮説思考等のテクニックを駆使して、思考の網羅性を担保しながら、果てしない未知の暗黒海を掘り進める作業です。
と定義しました。これらのテクニックの使用方法が、まさに思考法にあたるのだと思います。
が、残念ながら、ここに明確な答えはありません。
ただひたすら、自問自答して苦しむことが、最大の秘訣です。私は、これがわかるまでに、丸1年答えを探し続けました。
例を挙げるとわかり易いでしょう。
- 透明なコップ(グラス)の使い道について、MECEに分解せよ
という問題に対して、どのように考えるでしょうか?固体・液体を支える容器、重し、割って刃物にする、火起こし、武器、潜水道具、トイレ、ボーリング、円形のクッキーの型、サッカーボール、ウェイトトレーニングetc・・・これで全部でしょうか?
やったことがある方はご存知のとおり、上記に上げた思いつきベースの言葉を共通する概念でくくり、言葉のレベル感をより上位概念に上げる等のコツはあります。しかし、所詮、その言葉のレベル感でさえも、「これで全部か?」「抜け漏れがないだろうか?」と自問自答しなければなりません。同様に、因果関係を確かめるとき、ロジックを作り上げてメッセージを導出するとき、等、すべての場面で「これで通じるか?論理の抜け漏れがないか?」と、自問自答を繰り返します。
深堀りするときも同様です。「ここが有望そうだが、本当にそうか?」「他に見落としているポイントはないか?」などなど。
こうした自問自答を諦めずに、とことん考え続けること。それが「深く考える」思考法なのです。
それだけでは、あまりに手放しなので、以下、レベル1〜3のTipsに落として見ます。ここからは、その辺の本と大して変わらないかもしれませんが、ブログ主=サンプル数1のアンケート結果を元にしていますので、少しでも考え続ける「苦しみ」を理解できるかと思います。また、Tipsを通じて、思考法のHow toに関わる部分も、多少はお伝えできるかと思います。
レベル1. まずは知識をつなげてみることから始めてみる
レベル1では、インターネットや書籍で調べてわかる知識を、なるべく深く掘りすることから始めてみるのが良いと思います。これまでは、まとめ記事等を読んでわかった気になっていたテーマや事柄について入念に調べて、手書きベースで構いませんので、構造化してみてください。「構造化」とは、共通項でくくって、概念をまとめ上げることです。自身の理解と他人への説明に便利な技です。
ここでは、これまでサボっていた脳みそのリハビリ程度にとらえて、「深堀り」する感覚を取り戻すことを第一目的としてください。「構造化」については、できればで良いと思います。正解はないので、納得ゆくまでできたら完璧ですね。「納得ゆくまで」というのは、人に説明できるレベルのことを指します。
例えば、こんなテーマ。
- ロジックツリーとイシューツリーの違いはなにか?
- 諫早湾の干拓事業はなぜ問題になったか?
- 自身の生命保険の必要補償額はいくらか?(その算出の仕組みを理解し、自分の手で計算せよ)
- 2015年までの世界の(実質/名目)GDP成長率はいくらか? など
なるべく、複数の書籍やサイトをあたって、その根本的な仕組みを理解しなければならないテーマならなんでもOKです。答えの理由まできちんと構造化した上で、文章にできるまで理解してください。
そして、「要するに何なのか」を一言で説明してみてください。そこに至るまでには、「ここに書いてあることは、要するにXXX。だから、こっちはこうなって・・・」と、収縮と発散を繰り返すことが必要です。
レベル2. 次に、ゼロベースで考えてみる
レベル2からは、一気に難しくなります。日ごろの常識や固定観念、直感的な理解を一旦脇に置いて、「なぜ」や「なに」をゼロベースで考えてみるステップです。
ますは、何もリサーチをせずに、いまの素の頭で考えられる限界まで考えてみてください。ゼロベースで考えるということは、物凄く想像力の要る作業です。妄想しまくってください。また、思考プロセスとしては、「機能・構成要素を分解してみる」「ユーザーの気持ちになってみる」等ことが定石です。
そして、自分の出した答えに対して、何度も「本当にそれか?」と問いかけてみてください。その上で、構造化してみてください。私の経験上、プロフェッショナルとして顧客に説明できるレベルまでできるようになるまでには、相当な苦しみが必要だと思います。
例えば、こんなテーマ。
レベル3. 最後に、そもそも論を深堀りして考えてみる
レベル3では、「あるべき論」を論じてみるステップです。レベル1, 2は、このための練習でした。
考えるにあたって、様々な疑問が浮かぶはずです。その疑問を構造化すると、知るべきポイントが明確になってきます。これを「論点」と呼びます。論点は、いくつもの階層から成っています。例えば、「これまでどうしてきたか?」「現状はどうか?」「今後どうすべきか?」という時間軸でも3つの論点が出てきます。正解はありませんので、論点そのものを考えるのが、この問題の本質だったりします。*4
例えば、こんなテーマ。
- そもそも、大学はどうあるべきか?
- そもそも、タバコ税はいくら値上げすべきか?
- そもそも、交通事故を減らすにはどうすべきか?
- そもそも、イジメを減らすにはどうすべきか? など
海外事例やそのものの歴史を知ることはもちろん、ゼロベースで機能やユーザーベネフィットを分解することも必要です。もっと戻ると、対象そのものの定義づけも必要となります。
まとめ
Tipsの3つは相当に説明を簡略化していますので、まぁ、そんなもんか、とイメージを持ってもらえれば良いと思っています。
それ以前に、「深く考えること」について私なりの意見を論じてきましたが、本当は、このテーマ自体、自分で「深く」考えてみる価値があることだとお気づきでしょうか。むろん、私もまだまだこのテーマについて考え続けていくつもりです。
最後に、一部眉唾理論ではありますが、「1万時間の法則("The 10000-Hour Rule)」というものを紹介して終わりとします。この法則は、マルコム・グラッドウェル『天才!ー成功する人々の法則』(Malcom Gladwell "OUTLIERSーThe Story of Success")にて、初めて著者が紹介した説で、「ある事柄につきプロフェッショナルとなるためには、その訓練に最低1万時間が必要である」という、至極シンプルな法則です。
思考法についても、この法則と同様に、1万時間悩み続けた上で、初めて身につく・使いこなせるようになる、プロフェッショナルの領域があります。前半で紹介した雑誌「Think!」は、そのレベルの人たちが書いた思考法の記事で溢れています。これらを身につけるためには、同様に1万時間を要することは想像に難くありません。
にも関わらず、この法則を知っていながら、次から次へと色々な記事を読んでできた気になる人が多いのが事実で、はてなブックマークもその情報の消費に拍車を掛ける仕組みになりつつあります。Twitterなどは特に顕著かもしれません。
私が、
これまで、何を考えて、どうやって生きてきたのか、ジョブや仕事を通じて露呈します。
”2009-12-21 学生と議論したり、プレゼンを見ていて思うこと”
と言ったのは、この1万時間の過程である、日常における思考の深さやパターンが、選考のプロセスを通じて露呈することを言い表しています。何度も言うように、“手に取るようにわかる”というのも嘘ではありません。
自分の事を度々棚に上げて論じてきましたが、ぜひとも、自分の頭で考える大切さが伝われば幸いです。
紹介した本
Think!別冊NO.1 一流の思考力 (シンク!別冊 No. 1)
- 作者: 別冊Think!編集部
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2008/09/25
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
- 作者: ジェームス W.ヤング,竹内均,今井茂雄
- 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
- 発売日: 1988/04/08
- メディア: 単行本
- 購入: 91人 クリック: 1,126回
- この商品を含むブログ (377件) を見る
- 作者: 三谷宏治
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/10/20
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 28回
- この商品を含むブログ (20件) を見る
- 作者: マルコム・グラッドウェル,勝間和代
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/05/13
- メディア: ハードカバー
- 購入: 14人 クリック: 159回
- この商品を含むブログ (135件) を見る