雑誌出版のキー・ドライバー
2010年ごろから、おまけ付きのファッション雑誌が良く売れています。
先日のロイターでも下のような記事を見かけました。
このご時世、どの出版社も雑誌が売れずに悩んでいるというのに、バカ売れしている女性誌がある。宝島社の「sweet」「InRed」「spring」の3大女性誌だ。人気の秘密は、バッグやポーチなどの豪華な付録。
2011年4月10日:雑誌不況なのに鬼売れの秘密は「オマケ作戦」
(中略)
2009年春から全国の書店員をバスツアーに招待するという試みを始めた。第1回は印刷会社の工場で書店員と一緒に雑誌ができるまでの過程を見学。第2回はお台場や六本木、原宿のファッション店「FOREVER21」などを、雑誌のロゴでラッピングしたバスで巡った。桜田さんいわく、「マーケティングの究極の目的はセールスを不要にすること」。実際、バスツアー後は書店員たちが雑誌に愛着を持ち、書店で大々的に陳列してもらえるようになった。
以前の記事でも書いた通り、単に、こうしたニュースを読んで、へぇ〜とかほぉ〜とか思っているレベルに留まっていては意味が無いので、ちょっと意図的に考えたことを紹介します。
こういうのは、トイレに行ったときとか、タバコを吸う間くらいに何の気なく考えるのがコツです。
マクロ的に見た成功要因
雑誌ビジネスは、情報を売るという意味で、俗にいうコンテンツビジネスに近く、成功要因は以下の3つと言われます。
- 正確なターゲティングに基づく、当たるコンセプト作り
- マーケティングコストの継続投下(棚の確保)
- 高度な販売数予測に基づく返本率の低減
簡単に言ってしまうと、“企画を当てに行って”“広く棚を確保して売り込み”“ロスを少なくして利益を出す”ビジネスということ。
今回紹介した「sweet」や「Inred」の成功は、まさに、編集者による丁寧な時代の読みと、大手雑誌社だからこその販促に由来するものだと思います。
そこに、オマケという付加価値をのっけて、ブームの火付け役となったということでしょう。
素朴な疑問
一方で、もう少し想像を働かせてみると、雑誌+オマケ(付録)は、ファッション分野以外で既に長年実行されてきた打ち手だということに気づきます。
代表的なものは、DeAGOSTINIの「週刊○○」、学研「大人の科学」、小学館「小学○年生」など、おなじみの雑誌が思いつきます。
では、どうして、そんな簡単な方法で、宝島社の「sweet」「InRed」「spring」が成功したのでしょうか?
更に遡って、そもそも、雑誌出版のビジネスで成功するための肝は何なのでしょうか?
多くの場合、このような素朴な疑問から「そもそも論」の疑問に、一度立ち戻って、思考が出発します。
まずは分解して考える
先日、サロン・ビジネスを題材にした記事の通り、まずは収益を因数分解して考えてみます。
まず、コスト面は、こんな分解。
- コスト = 原価+販管費 = 印刷コスト+配本/郵送コスト+返本コスト+その他
出版ビジネス全般にとって、印刷コスト、配本/郵送コスト、返本コストの3つが重たいであろうことは、容易に想像がつきます。
特に、本屋から出版社への返本率の異常な高さ、出版業界の特殊な業界構造、結果としての独特のコスト構造を作り出していることは、耳にしたことがある方も多いと思います。
コスト側の論点も、業界構造や慣習へ斬り込む余地がないのか?、一度、本気で考えてみると面白いかもしれませんが、一旦、この辺に留めて、売上側をもう1段分解してみます。
一方、売上のドライバーは、複数ありますが、今回はこれ。
- (A)年間販売回数 × (B)1刊あたりの売上( = (C)販売部数 × (D)単価 )
1つ目(A)年間販売回数は、月刊誌を週刊誌に変える等、発刊頻度を上げることができそうなのですが、あまりこのような事例を聞いたことがありません。
月刊誌を週刊誌に変えた場合、内容はその1/4になり単価を下げることに繋がりますし、そのまま読者がついてくるのは難しそうです。逆に、週刊誌が月刊誌になって、売上が増えるということもないでしょう。
雑誌で取り扱う情報の鮮度とコンテンツの密度が二律背反するもので、雑誌のジャンルとコンセプトに応じて、適した発刊頻度が決まってきそうです。
唯一、週刊誌や月刊誌から、特別号や増刊号と称して、季刊で別冊を出すのは、ありだと思います。
次に、2つ目(C)販売部数は、(c1)購入者数 × (c2)1人あたりの購入点数とさらに分解できます。
(c2)1人あたりの購入点数は、ファッションや美容業界の店用にまとめ買いするくらいで、「ほぼ1」だとうと推察。
(c1)購入者数について、もう少し深掘りしてみます。
どのように購入者を増やすか、漠然と考えていてはダメなので、論点を具体化します。
購入者を増やす=雑誌の企画段階である程度のターゲットを絞ってしまっているため、そのターゲット層の中でのシェアアップを考えることを意味します。
シェアアップには、既存読者の購読率を維持することと、新規読者を開拓することの2つの方向性があります。
具体的には、
既存読者に対して、・・・年間契約による囲い込み、コンテンツの連載化による継続率アップ、常に棚に陣取り機会ロス減少、、など
新規読者に対して、・・・マーケティングコストの継続投下による認知向上/接触頻度アップ、他の企業とのタイアップによるクロスセル、セグメンテーションの見直し、販売チャネルの拡大、、など
今回は、雑誌のジャンルや出版社を絞っていないので、いくらでも思いつきます。
ケース面接のような具体的なお題であれば、より適した回答に至ることができそうです。
3つ目(D)単価を上げるための代表的な施策として、今回の雑誌+オマケ(付録)作戦があります。
オマケは、コンテンツ以外で付加価値を上げ単価UPを正当化する、或いは、単価を据え置くことで、実質値下げ効果を生み、(b1)購入者数を増やす施策です。
教育雑誌のジャンルを考えると、進研ゼミのように、赤ペン先生による添削という付加サービスやインターネットを使ったゲーム配信、親御さん同士のSNS等、オマケ以外にも非常に充実していて、もはや雑誌ビジネスというより、教育サービスに近いビジネスとなっています。
また、コストを無視した場合には、純粋に、コンテンツ量を増やす/質を上げることで、単価を引き上げる施策もあると思います。
例えば、マンガ雑誌で考えると、ジャンプとサンデーをくっつけて単価を2倍にするなど有り得そうです。(それぞれ読者層が違うので簡単ではないですが)
ビジネスの類型
ファッション雑誌のオマケ作戦の記事を読んで考察を始めたものですが、上記のような分解を考える中で、世の中にあるもっとたくさんの成功事例にも想像を膨らませています。
ジャンルを無視して、ざっくり類型化してみると、こんな感じでしょうか。(もっと良いのがあったら教えてください)
1.少年ジャンプモデル: 究極的な売り切り型のコンテンツ。発刊頻度UP(週刊)+コンテンツの継続性で、購読の継続率をアップ ⇒さらに、読者層の成長に合わせて、ヤングジャンプ、ビジネスジャンプへ継続。
2.ナショナル・ジオグラフィックモデル: 圧倒的なクオリティのコンテンツ+年間契約・囲い込み
3.進研ゼミモデル:コンテンツ+付加価値(添削)両立 ⇒近い領域での付加サービス
4.ディアゴスティーニモデル: 付録メインのコンテンツ
5.コロコロコミックモデル: TVや玩具といった相性のよい領域とのタイアップ
ファッション雑誌の成功事例は、4のモデルに近いと見ていますが、1〜3・5のモデルでもアイディアを考えることができそうです。
まとめ
さて、トイレの合間に考えたにしては、長く書いてしまいましたが、直感的にふわっと考えたことを文字に起こしながら、細かく考えてゆく作業をしています。
その中でも、
- 売上やコストのドライバーを分解して考えること
- 世の中の成功事例を眺めて、その普遍的な要因を類型化してみること
は、コンサルタントがよく行う思考方法です。
ぜひ、いろんな事例で試してみてください。
考えた因数分解
- 雑誌の収益 = 売上 − コスト
- 売上 = (A)年間販売回数×(B)1刊あたりの売上
- (B)1刊あたりの売上 = (C)販売部数×(D)単価
- (C)販売部数 = (a)購入者数×(b)1人あたりの購入部数
- (a)購入者数 = 新規+既存
- コスト = 原価+販管費 = 印刷コスト+配本/郵送コスト+返本コスト+その他
- 売上 = (A)年間販売回数×(B)1刊あたりの売上
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