ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

意思決定の軸

yo4ma32011-12-27
2011年の振り返りをしながら、Evernoteに書き溜めた断片・Twitterの履歴を読み返しています。
ブログに自動postしている1日分tweetの中に、記事になりそうなコンテンツがいくつかありました。
逐一読むのが面倒な人、初めてこのブログを訪れる人向けに、何回かに分けて、記事に再編集・書下ろしをしようと思います。


今回は、こちら2011年1月18日のつぶやきを再編集します。
当時、内定者向けの囲い込みディナーで学生さんたちと会話した後に考えたこと・感じたことを言語化していました。


内定者と会社側には、圧倒的な情報格差があります。この状況で囲い込みをおこなう時点で、正直に言うと、学生さんの意思決定が歪むことは明らかです。いくらでも情報操作できちゃうから。
それでも、一生後悔しないだけの意思決定をするために、あるいは、自分が腹の底からコミットできるだけの納得いく意思決定をするためには、どうすべきなのかを考えてみようと思います。

はじめに: 誤った意思決定

残念ながら、学生さんの中には、非常に偏った感性でもって、客観的に見て、本人が不幸になってしまうのでは〜と不安になるような意思決定をしてしまう人が少なからずいます。将来のことなんて誰にもわからないので、彼らが絶対間違っているとは言えません。が、不可思議な判断をしているなぁと何人ものコンサルタントが思っています。


僕のフォロワーには学生さんが多くいます。中には、弊社を受けられた方、さらに、見事にオファーを受けた方もいるようなので、断言します。「迷う理由なんてないよ。いまこのタイミングで、この会社に入社せずして、どこ行くの?」と。
贔屓目にみていることは重々承知していますが、このオファーを蹴って競合に行くなんて、正直、信じられない業界環境にあります。それぐらい、リーマンショック以降の各ファームの栄枯盛衰っぷりは如実に表れていますし、ちょっと関心のあるビジネスマンなら周知の事実です。
でもなお、的外れな意思決定をしてしまうような学生さんは、よっぽど自己分析と業界のリサーチが甘いか、囲い込みや採用プロセスでの表面的な印象に囚われているか、はたまた、本当の変わり者か・・・。


以上は、僕のポジション・トーク込みの「想い」ですが、まぁ、そこまで的外れなことは言ってません。
どの業界でも毎年起きてしまうようなミスマッチの極端な例なんです。
原因は、突き詰めると「学生さんの意思決定の軸が何かおかしい」ことに帰結すると思っています。会社側が、情報格差を利用して、都合の良いことしか言わないこともありますが、それは学生さん側の追究が足りないことの裏返しです。
採用側の人間がこう言うのもアレですが、だからこそのエントリーだとご理解ください。

自分が腹の底からコミットできるだけの納得いく意思決定をするために

僕から伝えたいことは3つです。


もっとも重要なのが、判断軸を常に自分に置くこと


いろんな噂や吹聴に惑わされず、ファクトと意見を切り分けて聞くこと


そして、中長期的な自分のビジョン(=判断軸)のもとに、意思決定すること


人間、最後は感情で意思決定するものです。
その本質を理解したうえで、自分の意思決定をマネジメントする意識を持つ。
直感が悪い訳ではないが、自分の感覚が頭を支配している状態で、正しい判断はできない、ということを理解できているかどうか。


自己をメタ認知する癖のある人には、当たり前のことでしょうが、できていない人も多いんですね。
根底に自分の「想い」を秘めながら、客観的に、冷静に、ロジカルに、人生に関して意思決定するのって、ものすごく難しいことです。感情的になっている状態で、いろんな人に話を聞いたり、考え込んでも”答え”(らしき直観)は変わりません。客観的な判断にはほど遠い。
別の言い方をすると、上記のメタ認知ができていない状態で、試行錯誤のためにいろいろ行動したところで、往々にして無駄骨だということです。「人に相談するときって、だいたい自分の中に答えが決まってる」って経験則は正しいわけです。


そして、「感情的に自分の直観を曲げられないこと」と、「判断軸が自分にあること」というのは、非常によく似た状態です。
が、意思決定の質に、天と地ほど差があること、を理解しておきたい。

自分の意思決定をマネージする

さて、順番に考えてゆきましょう。
後々、疑問を抱くことがない意思決定をするためには、まず、「方法論」に頭を使うのがコツです。
むやみやたらと苦労する前に、経験則的に、感覚的に正しいであろう方法で良いので、ぼんやりとした道筋を描いておく。
具体的には、
自分をどんな状況に置いてあげれば質の良い判断ができるのか?どんな材料を与えてあげればいいのか?どれだけ考える時間を取ったらいいのか?
そのためには、どんな資料や情報に当たればいいのか?どんな人に何の話を聞けば解決するのか?
そして、自分の直感に耳を傾けて、何に惹かれるのか?何に違和感を感じるのか?煎じ詰めて、論点は何なのか?
これらを、ゆっくり分析してみれば良いと思います。


考えるときは、直観・感情だけを浮き彫りにして、冷静に眺め回してみることが重要です。


究極的に、自分が何に迷っているのか?


これをわからないまま迷う人がほとんどです。
考えるのを放棄して、ただ時が解決するのも立派な知恵ですが、少なくとも、自分が迷っていることを整理するくらいやりましょう。サボらないこと。特に、就職活動という、自分の人生を大きく左右するような意思決定でサボらないこと。
考えるのを止めなければ、自分が腹の底からコミットできるだけの拠り所が、自ずと見つかるはずです。

意思決定のプロセス

方法論がわかって、問いが立ちました。
次に、検討のステップを勝手に4段階にわけてみます。


意思決定の4段階。
1.自分の迷いや好き嫌いの感情を煎じ詰め、「(中長期的な)判断軸」を明確にする。
2.その判断軸を、「常に自分に置く」こと。
3.いろんなInputの「ファクトだけを抽出」する。
4.抽出したファクトを判断軸に照らし合わせ、答えを導く。


迷うときは、「判断軸」がぶれているか、「ファクト」が足りないか、「照らし合わせ」が間違っているか、この3つのいずれかです。
判断軸が自分に置かれてない、のは論外です。迷う以前の問題。


自分が何をしたくて、何に迷っているのか、わからない人は往々にしています。それを本人が自覚できていない状況です。そいういう人は得てして、少しInputをもらうと、他にも論点がみえて不安になってしまい、思いつきベースで、枝葉末節なことを要求し始めてしまいます。
3つのうち、何でつまずいているのか、置かれた状況を冷静に理解しましょう。


仕事で言えば、リサーチや分析は、やろうと思えば無限にできてしまいます。肝となる論点が何か、常に意識して、取捨選択する必要がある、ということです。論点を構造化して、優先順位を付ける。要らないものは、なぜならの理由を付けて要らない、と切り捨てる。これをやってあげるだけでもコンサルタントのバリューになる「整理力の神髄」です。


答えのないビジネスの世界で、「不要である」と言い切るのは、勇気がいります。大事な示唆を得られないのでは?あとで上司に言われて結局やることになるのでは?等々、不安と同居しながらの意思決定になりがち。
それでも、戦略とは捨てる事なり。捨てるからこそ、集中できることがあり、そこに戦略の妙がある。基本思想は、こうであるべきです。全部、なんでもかんでも、なんて、時間と金さえあれば誰でもできるんです。


翻って、学生さんの意思決定の構造も、実は同じことです。あれも知りたい、これも知りたい、では、いつまでも情報がないまま意思決定できません。
まずは、自分の判断にあたっての肝となる軸を特定すること。これに尽きます。
そして、囲い込みや採用プロセスのなかで、先輩含め社員の方から色々なお話を聞くと思います。書籍やネットの情報もある。これが主なInputになります。Inputの中で、定量的な情報や定性的でも誰に聞いても同じようなことはファクト。話し手の経験に基づく、主観的なファクトっぽいものには注意が必要ですが、ロジックさえ押さえればOKでしょう。
照らし合わせにも、注意が必要です。自分の都合の良い解釈をしないこと。意思決定の理由を、誰かに語って納得してもらえるかどうか、が分かれ目だと思います。


以上、長くなりましたが、就活において、意思決定の質を上げるために、一連の考えを述べてみました。
当時は、就職活動における決断を対象に論じていましたが、広く一般にマネジメントの意思決定にも通じるところもありますので、エッセンスを覚えておいて損はないのではないでしょうか。

余談: カルチャーと業績

ちなみに、コンサル業界の「ファクト」を押さえるための2冊。志望者には、最低これくらい読んでおこうとアドバイスしています。
ザ・コンサルティングファーム―企業との危険な関係

ザ・コンサルティングファーム

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  • 作者: ジェームズオシーア,チャールズ・マーティンマディガン,James O’Shea,Charles Martin Madigan,関根一彦
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コンサルティングの悪魔―日本企業を食い荒らす騙しの手口
コンサルティングの悪魔―日本企業を食い荒らす騙しの手口

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先の2冊を読んで、コンサルティングファームの歴史を紐解くこと
各社のカルチャーの根底にあるものを理解すること。必須です。


ここで「カルチャー」という言葉を使ったのは、数あるファームも、明確に、それぞれカルチャーが異なるからです。
最後は結局、合うか/合わないか、一緒に働きたいか/働きたくないか、という感情の部分で決まります。だから、尚更、研究して損はないことなのです。


まずは、過去を紐解き、各社のカルチャーの仮説でも持って、社員に話を聞いてみてください。そのものズバリが検証される場合もあるし、少なくとも透けて見える。
検証された仮説を、自分の判断軸に照らせば答えまで時間はかからない。そういうプロセスを経て、僕自身も、オファーに対して即決していました。


あと、学生さんは忘れがちだけど、「カルチャー」以外にも「業績」は確認すべきでしょう。
将来、何十年も働くような仕事ではないけれど、自分の食い扶持、さらには、成長曲線に影響します。
「直近伸びているのか、凹んでいるのか」、「その理由」、「さらに、今後どうなりそうか?」くらいは押さえておきたい。


挑戦しがいのあるプロジェクトに入れてもらえる頻度は、自分の成長曲線に、直接的に影響します。
コンサルタントとして挑戦しがいがあるということは、クライアント企業にとっても、10年に1度の大転機
こうした機会にめぐり合うファームかどうか。それだけクライアントから信頼されているかどうか。
クライアント企業にとっても、10年に1度の大転機になるようなテーマとは、何も成長戦略だけではない。コストや組織の話もある。
社長含めたマネジメント層が、腹をくくって変革を起こそうとしているテーマなら、面白くない訳がない!


こういった話は、オフィシャルにはなってはいません。が、知り得るのはごくごく一部の選ばれた学生だけかというと、そうでもない。面接や説明会で、社員に聞いてみれば、ざっくりなことなら答えてくれるはずですし、それで十分に検証できるものだと思います。