ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

スライドに魂を込める

yo4ma32009-03-17
コンサルタントにとって、「言葉」が商売道具だ。
極論してしまえば、お客さんに伝わり動いてもらえるのであれば、最終報告で分厚い資料さえいらない。
あるいは、クライアントの相談に乗ったり、日ごろのディスカッションに付き合う中で、相手に示唆を与えるような仮説を出すだけでも、立派なバリューになることさえある。
(相談役と冠のつく人々は、後者のバリューで食っている)


ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、「言葉」や「会話」だけで勝負できるコンサルタントというのは、
昔からそうできたわけではないし、何か突拍子もないことをしているわけではないということ。
それ以前に、有益なインプットを得たのちに、自分の考えを発展させ、さらに検証するための情報を取りに行く、
このPDCAサイクルを回す裏で、直感的であれ何であれ、論理を構造化しているのは間違いない。
パートナーやディレクター、プリンシパルと呼ばれるHPに写真の載る人と、ヨチヨチ歩きのジュニアコンサルタントとの違いは、
それが早いか、遅いか、圧倒的な力の差として現れているだけなんだよね。


そこで、ジュニアの第一歩となるのが、まず、1枚、ちゃんと紙を書けるようになること。
個人によって、パワポ、スライド、チャート等、いろんな呼び方があるけれど、ワードだっていいんだから、
要するに物理的な「紙」を指すのが、適切な理解なんじゃないかと思う。


この「紙」には、とても奥深い世界がある。
コンサルタントが高いフィーを得る対価として、唯一、物理的にクライアントに手渡されるもの。
フィーとは、所謂、時給であるから、単純に考えると、1枚スライドを書くために費やした時間が、そのまま紙の価値になるはず。
あるいは、最終報告の枚数でPJ全体のフィーで割ってあげたら、1枚当たりの価値が金額換算される。


たとえば、1千万円のPJがあったとする。
メンバーの人数、期間、難易度等、変数はたくさんあるので、1千万の高い・安いはひとまず置いておいて欲しい。
最終報告に100枚の資料を用意した場合、単純に10万円/枚。
時給 5万円のコンサルタントが、2時間かけて書いたスライドに等しい。


さらに本質を凝縮し、最終報告は半分の50枚となる場合もあり得る。
その場合には、当然、1枚の価値が倍増していなければならない。


普段、何気なく接しているであろう、パワーポイント。
10万円の価値がある渾身の1枚を作った経験ありますか?
学生の方には、卒業論文の説明のために作ったPPT30枚を見てほしい。
営業マンの方には、提案書として書いたご自身のPPT10枚を見てほしい。


誰が、あなたの1枚のスライドに10万円払うだろうか?


それだけ、真剣に、時間をかけて、1枚に対し、何度も何度も修正を繰り返しながら、推敲を重ね、やっとできあがる1枚。
文字のフォントの大きさ・色、グラフに付けた吹き出しの色・形、1文字1文字の位置、
35文字ににまとめたメッセージ、区切りの有無、ビュレットの大きさ・入れ子の構造、注記する言葉、
右左、上下に書く内容の関係、そのメッセージ、等々
僕自身も学生のときにはあまりに無自覚に、感覚的にこれらを配置していたが、
本来はこのすべてに意味がなければならないのだ。


そう、ミリ単位の精度で、作品を仕上げるように。


自分で10万円と納得できるようになるまで、さらには、チームメンバー・クライアントに認めてもらえるようになるまで、もの凄く時間がかかる。
僕の場合、最初は3日=72時間かけて書いた1枚ですら、その価値が認められなかった。
100枚は書いたころかな。
最近、やっと、きちんと練ったスライドと、そうでないスライドの違いがわかるようになって、
自分で書いた紙に対する「クオリティチェック」ができるようになったのは、嬉しいこと。
いまは、紙の構造から必要な情報を取りそろえ、成果物として出せる紙を作り上げるまで、平均して1枚5〜8時間程度かかるかな。
紙の難易度にもよるけれど、72時間かかっていた頃と比べると、格段の進歩だと思う。


魂を込めたスライドは、プロフェッショナルがプロフェッショナルたる所以が、そこで見てとれる代物なのだ。


最後に、僕の座右の書であり、何度もこのブログで紹介しているトム・ピーターズのマニフェスト(1) デザイン魂 (トム・ピーターズのマニフェスト 1)からの引用で締めくくろう。

なぜ、請求書を“芸術作品”にしないのか?
(誰が何と言おうと、これは顧客との重要な接点であり勝負の瞬間ではないか!)


なぜ、病欠の内規を芸術作品にしないのか?
(“最高の才能”に魅力を感じさせることが重要である以上、「人事マニュアル」は、面白い小説に匹敵するくらい面白くあってほしいものだ。小説ほどにつくり話ではないにしても。)

超 Cool !!
パワポで感動を与えるくらいできなきゃね。