ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

雌伏(しふく)の時を経て:(5)知性編

the puppy and the child

雌伏(しふく)の時を経て:(5)知性編

5月GWと7月末の休暇中に、家の本棚を一気に整理した。年末年始は何かと忙しいので、何でもない休日にやってしまうのが良い。
再読を含めて手に取り読む本すべてがドンピシャに当たっていたので紹介したい。
ちなみに、紹介していない本は、投資、小説、ヴェーダ(インド)、あたりの分野だ。投資本は、次のエントリーで触れたいと思う。

まとめ

本記事で紹介した読書体験は、7月、8月の2ヶ月間の話だ。この間、本当に濃密で幸せな知的体験だった。6月まで社内の再編や悩ましい対応ばかりで、数ヶ月間、会食もほとんど入れずに内政に注力してきた。それだけに、視座が下がり、沼に落ち、自分が閉じていく感覚に襲われていた。


たった9冊の読書で、世界がアップデートされた。


貪るように本を読み、各書の世界を縦横無尽に駆け回った。この体験を少しでもシェアできたら幸いである。


この9冊の本には、共通点がある。
それは、世界(社会)の大きな潮流を紐解き、自分がどのようにその世界(社会)に関わるか?という点だ。
1冊、また1冊と読了するたびに、点が線に繋がる感覚を味わった。
こうして出来上がった1本の線は、己の魂の世界から、企業、日本社会、世界競争、と凄まじい高低差を繋ぐものだ。


組織論

加藤洋平『成人発達理論による能力の成長』

ここ数年間でトップ3に入る。感激した本。なにより、この著者が凄い。
ざっくり要約してみよう。
ダイナミックスキル理論によると、私たちの能力は、網の目のように複数の能力が互いに影響し合いながら成長していくものであり、階段・梯子状のような線形イメージではない。1つのことを学習実践する時には常に無数の能力が関わっており、1つの能力を構成する「サブ能力」を開発対象として高めていくことで、ある時、全体としての能力が突然高まる現象が起きる。そして、1つの能力は5つの階層・13のレベルに分かれ、各能力が相互にネットワークされながらフラクタルに成長してゆく。成長のメカニズムには統合化・複合化・焦点化・代用化・差異化という5つの法則が作用している。抽象化(一般化)・持論化・言語化を経て、自分の血肉となる。この理論を実践するには、具体的な課題を通じて得られた体験を「経験」に変えていくことが必要だ。そのためのリフレクション(内省)が最も重要になる。
誰もが腑に落ちる内容だろう。

一方で、実際の現場で能力開発やスキル成長を検討する際、残念ながら私たちはよく誤った議論をしていることが多い。
典型的な例でいえば、

  • 経験依存派

人は機会(修羅場)により成長する。自ら機会を作ろう。リクルート学派とも呼べる乱暴な議論だ。なまじ誰でも1つはこの成功体験があるから納得されやすいのだが、「修羅場に放り込めばいい」「抜擢しよう」とノリだけで人事異動を決めている経営層には幻滅すべきだろう。能力の変動性・環境依存性の観点で、意図的に設計された機会は、個人や組織の能力成長に非常に有効な打ち手になる。一方で、漠然と新しい環境・タフな環境に放り込めば、勝手に成長するという幻想は誤りである。
また、経験を血肉と化すには、予め、細分化されたサブ能力の課題設定に加えて、経験した後の言語化や抽象化の内省プロセスが必須となる。これはかつて私も記事に書いたことがある。もう10年近く前になりますね(無常也)
yo4ma3.hatenablog.com
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  • 抽象満足派

”リーダーシップ”が足りない。”コミュニケーション能力”が足りない。きみは何のことを言っているのだ?もし自分の課題を分析しているなら、もっと構成要素(サブスキル)を分解しないと打ち手を誤る。感覚だけでやっている人も多いが、必ず伸び悩むときが来る。また、もしマネジメント層が組織や人の課題を議論しているのなら、これもまた漠然とした能力を伸ばそうとしているに過ぎないので、もっと細分化・具体化しなければならない。


本書を読むことで、人材開発・組織能力・育成・マネジメントといった幅広い領域の解像度が一気に上がる。断言できる。
会社の部長・マネージャー陣、全員に読ませたい。
そして視座・フレームワークを理解したうえで、同じ抽象レベルで会社の未来を議論したいと強く思った読後だった。


リズ・ワイズマン『メンバーの才能を開花させる技法』(英題:”MULTIPLIER”)

メンバーの才能を開花させる技法

メンバーの才能を開花させる技法

  • 作者: リズ・ワイズマン,Liz Wiseman,グレッグ・マキューン,Greg McKeown,(序文)スティーブン・R・コヴィー,Stephen R. Covey,関美和
  • 出版社/メーカー: 海と月社
  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本では、「増幅型リーダー」と「消耗型リーダー」の対比から、価値ある人材(メンバー)の能力を引き出し、さらにより優秀にしてゆくことで成果を生み出す「増幅型リーダー」になるための方法を説く。従来から巷の本で目にする「啓発型のリーダーシップ」からもう一段踏み込み、実践的かつ生産的なリーダーシップ像である。
私は「リーダーとマネージャーの明確な違い」について話をする際に、よくマーカス・バッキンガムの本を紹介している。ワイズマンの本著で描かれるリーダーシップは、バッキンガムが言う「優れたマネージャー」の定義に近い。

最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと

最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと

増幅型リーダーの5つの習慣のなかでも、個人的に気に入ったのは「①才能のマグネット」という表現である。一般的に人望・人徳と言われるような日本的な感覚とは一線を画した、より外資的な考え方が根底にあるものだが、日本企業のマネジメントもこの能力に真正面から取り組む価値は十分にあるように思う。むしろ、職位や権力に依存した人心掌握術はいまどき通用しない。より実践的なメリットを互いに享受できる上司部下の関係を構築することが必要になる。そのためには、部下を持つすべての管理職は、膨大な努力が必要なのである。
「増幅型リーダー」になるための努力の方法は、本書でいくつも示唆されているものがあるが、本質的には加藤洋平「成人発達理論による能力の成長」で示されたように、リフレクションを通じて、経験を自分の言葉で抽象的概念化することが必要だ。


自己実現

中村天風『研心抄』

研心抄

研心抄

スピリチュアル編でも紹介した本。
人間の心と身体は、真我(霊魂)の道具に過ぎない。「真我本位に生きる」ことこそが、至上の人生である。と説く。
天風師によると、心は5つに分かれており、中でも「霊性心(霊性意識)」を発現させるべく、「本能心」「理性心」を完全に統制する必要があり、そのためには「精神統一」により「意志」の力で心を訓練すべしとある。そのための実践的な方法が解説されている。
また、「意志」は、普段我々が日常語で使う意味ではなく、心および生命の一切に対する主宰権能を持つ(最高権能)ものであり、真我(霊魂)に実在する固有性能であるそうだ。「精神統一」に関しても、我々がイメージするそれとは一線を画す。観念の統合、注意の結合、を習慣化することであり、有意注意力を訓練し認識能力を養成すべく、官能(五感)の啓発、精神内容の浄化と整理(瞑想)などの方法が解説されている。五感の感覚器官は、「心に対する口」に相当する。「心の胃の腑」とも表現されている。そのため、官能の啓発・神経反射作用の調整を重要視している。
途中途中、現代の世のなかは~と昭和20年ごろの人々が左脳・理性・科学・物質の世界偏重で物事をとらえ、他人との比較でロクでもない苦悩を抱えていることを嘆いている。これは21世紀になったいまでも通用する近代~現代の精神性の課題だろう。
本書の中では、潜在意識や大我意識(”先天の一気”と呼ばれる霊的体験)についても多くの紙面が割かれている。宗教的・霊的な体験なので、言葉で伝えるのに苦慮されているが、体験した人はみな、明確に知覚するそうだ。

難解な内容なので、自分の言葉で説明できるほど理解できたかどうか些か不安ではあるが、雑に現代語風に翻訳してみる。

  • 本能からくる煩悶を積極的なアファメーションで打ち消し、五感を鍛えてあらゆる知覚(第六感、第七感含む)を研ぎ澄ませ、瞑想等により潜在意識を整理することで、大我意識を発現・先天の一気を体感し、真我本位に生きるべし

ということだ。
明確に認識することができない「霊魂」や「霊性意識」を主軸に人生を設計する話なので、いまいちピンとこない人も多いと思う。
或いは、武道や芸道に触れたことがある人なら、朧げながら理解できる部分もあるかもしれない。

どうだろう、興味を持てただろうか?


デイル・ドーテン『仕事は楽しいかね?

仕事は楽しいかね? (きこ書房)

仕事は楽しいかね? (きこ書房)

キャンプの夜、一人でくつろぎながら、kindleに入っていた本を再読。
内容は非常にシンプルで、「挑戦することの価値」を多角的に説いたものだ。穿った見方をすれば、非常に楽観的なアメリカンドリームを、啓発書風にきれいにまとめただけのように読めるし、出てくる成功者の例はすべて生存者のバイアスがかかりまくっているので、真に受ける人も少ないように思う。私も、昔最初に読んだときは、あまりピンとくるものはなかった。
それでも、「試してみることに失敗はない」「明日は今日と違う自分になる。これは簡単ではなく、とんでもなく疲れる」という指摘は、改めて胸に突き刺さるものがあった。
「成功は、そのほとんどが運の要素だ」という身も蓋もない事実に立脚すれば、もはや「確率論」の世界に入るわけなので、試行回数がキードライバーになってしまう。それはその通りでしかないので、挑戦を後押しする観点でいえば、本書はその1点でのみ突き抜けている良書だと思う。
Kindleで無料で読めるので、内容を忘れている人は再読してみると新しい発見があるだろう。


日本社会の変化

山口周『ニュータイプの時代』

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

元同僚の山口さんの最新刊。各章はじめにある偉人たちの言葉が、毎章ことごとく的を射ていて唸ってしまう。
例えば、この辺りは痛快だ。

  • コンピューターなんて役に立たないね。あれは答えを出すだけだ。(パブロ・ピカソ
  • 善い人間についての議論は終わりにして、そろそろ善い人間になったらどうだ?(マルクス・アウレリウス
  • もし船を造りたいのなら、男たちをかき集め、木材を集めさせ、のこぎりで切って釘で留めさせるのではなく、まず「大海原へ漕ぎ出す」という情熱を植え付けねばならない。(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
  • 狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、その道も広々として、そこから入るものが多い。(新約聖書
  • すぐに役立つものは、すぐに役に立たなくなる(小泉信三
  • 人生を浪費しなければ、人生を見つけることはできない。(アン・モロー・リンドバーグ

個人的には、第二章「ニュータイプの価値創造」がお気に入りだ。

  1. 問題を解く価値よりも「発見する価値」が上がっている。
  2. そして、イノベーションは「優れた課題」からしか生まれない。
  3. 未来は予測するものではなく「構想するもの」である。

このストーリー展開が山口さん独自の視座の土台になる。メディアの取り上げられ方としては、本書で提示された「役に立つ」vs「意味がある」という対比構造に目が行きがちだが、そこはキャッチ―なだけで本質ではない。むしろ、その背骨を構築するこの論理運びに注目すべきだと思う。
そして、第五章「ニュータイプのワークスタイル」では、1つの組織に所属し続ける安定志向と、1万時間の法則に代表される努力至上主義を、懇切丁寧に否定してくれる。その後、内発的動機とフィットする場に身を置きながら、Adaptiveに生存してゆく戦術まで指南してくれる。
「起業しろ!」とか「脱社畜!」なんてtwitterで安い挑発に乗ってしまうくらいなら、本書を読んで、地に足つけて、高く飛び立つべきである。

ちなみに、わたしは山口さんの過去の著書にも一通り目を通してきた。毎回いつもの山口さん節だなぁくらいの感想だったが、今回は切れ味が一気に鋭くなり面食らってしまった。本書に出てくるクソ仕事の「クソ」は山口ワードだ。それくらい踏み込んだスタンスで書かれているし、長年の累積思考を一気にぶつけたような、縦横無尽の論理展開になっている。先日(8月末)の日経MJの記事では「怒りがある」と仰っていた。怒りが原動力なのであれば、本書の鋭い斬りつけ方も納得である。


落合陽一『日本再興戦略』

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

落合さんの本は初めて読んだ。賛否両論あるが、わたしは、日本の近代~現代という歴史的にはほんの僅かな期間で社会に蔓延した欧米至上主義に対して、それを真っ向から否定し、処方箋を提示してくれた良書だと思う。多くの読者が、いかに近代の日本経済の成功体験に囚われてきたか、さらに、そこから抜け出す難しさを認識することができただろう。
確かに、日本の歴史を紐解き、日本らしい文化や民族的な得手不得手から、次の打開策を考えるという本書の論旨は、安直すぎるという読者批判は正しい。彼の歴史認識も薄っぺらく、逐次引っ掛かってしまい本書全体の信用を損なっているという書評もその通りだろうと思う。落合さんと面識がないけれど講演会やプレゼンを拝聴する限り、自分の世界での論理運びに長けているので、1つ1つの論理が破綻しているケースも多いなという印象だ。幅広い知識と洞察を繋ぎ合わせて、雰囲気でストーリーをゴリ押してくる。それを常人には理解できない天才だと有難がる人と、薄っぺらいなと拒絶する人が分かれている。
それでも、彼の提示する世界観や、ごり押しではあるが主張している雰囲気は、間違いなく新しいし、面白いと思う。わたしも共感を覚える部分が多いので、割と肯定的に捉えている(ただ、本を読むのは避けてましたがね)

山口さんのニュータイプとの共通点がある。
それは、「資本主義」をはじめとした社会システムを全否定するのではなく、人間との関係性のあり方に焦点を絞り、システムの改変に取り組むことを提案している点だ。システムをリプレイスするのではなく、既存の仕組みの中で、人間側の認識やあり様が変わることで、世界が劇的に良くなるビジョンを示唆してくれている。
2つの本を対比しながら読むとより理解が深まるのでお勧めである。


山口揚平『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』

1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法

1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法

これは偶然、noteで無料公開していたので通読したものだ。思想家としては、山口氏・落合氏と比べてしまうと格落ち感が否めないが、そういう痛々しさ(バイアス)を除けば、本書のストーリー展開は結構面白かったと思う。わざわざ緩いタイトル名にしているのも、著者もその辺を自覚しているのだろう。
山口・落合両氏との差は、圧倒的な知識不足にある。かといって思想家としては中村天風師の足元にも及ばない。ひたすら少ないインプットから妄想で話を膨らませているのが本書である。

あれ?批判になってしまう。そんなつもりはない。

読み応えがあるのは、第3章だ。1章2章は読み飛ばしていい。
3章で提示される、多様性の時代に、個人でコミュニティポートフォリオを持ち、コミュニティに対して価値を発揮してゆく、という提案は山口・落合氏の本では描かれていない、より具体的でリアリティのある解法に思える。「ニュータイプ」と「日本再興戦略」においても、複数の組織やコミュニティに属して、低リスク・高リターンの戦略を進めているが、本書では一歩進んで、プロボノやボランティアを勧め、個人ではなく個性を増幅させるための方法論を説く。そして、本当の自分は「世界」であり「環境」であるから、自己認識を「関係こそが生命の本質である」と認識するところまで拡張させてゆく。今度は一気に中村天風師の世界まで突入する。荒っぽいストーリー展開ではあるが、口語体で描かれた取っつきやすい思想だと思う。


グローバル潮流

伊藤穣一『9プリンシプルズ』

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

この本は、本記事で紹介する本の中で、最も難解だ。天風師は何だかんだ疲れたの頭でもボーッと読めてしまうが、この本は世界最高峰の頭脳が、最先端の世界を読み解いているので、なかなかハードだ。速読よりも精読すべき部類だ。本書が話題にならないのも、恐らくちゃんと理解できる人が少ないからだろう。
わたしの理解では、本書が描く現在進行形の世界は、従来から論じられてきた「創発」や「ネットワーク時代」「AI革命」といった世界が、テクノロジーの進化と果敢な挑戦者によって、目の前の出来事としてどんどん現実化してきた、という話だ。ある種の予想や理論として論じられてきた世界観が、想像以上のスピードで現実化している。著者によってそれらの出来事が詳細に描写され、臨場感たっぷりである。そして、それらを帰納的にエピソードから原理を導く形で著者が示してくれている。
これがメディアラボの行動原理(プリンシプル)だと。
本書ではそれを9つの原理、「権威より創発」「プッシュよりプル」「地図よりコンパス」「安全よりリスク」「従うより不服従」「理論より実践」「能力より多様性」「強さより回復力」「モノよりシステム」、として紹介している。
特にわたしが好きなのは、第三章「地図よりコンパス」だ。伊藤穣一氏が所長を務める「MITメディアラボ」の行動原理・文化がよくわかるエピソードが紹介されている。
本書を通じて、伊藤穣一氏の視座を垣間見ることができる。世界の最先端で見える景色だ。それでも、激動の世界を切り取るには、本書だけでも不十分だろう。
山口周氏「ニュータイプ」で論じられている社会と人間のあり方と、数多くの共通点を見出すことができる。これらを複合的に解釈してゆくことで、自分なりの世界観と、世界・社会・テクノロジーとの関わり方を考えることができるようになると思う。


蛯原健『テクノロジー思考』

テクノロジー思考 技術の価値を理解するための「現代の教養」

テクノロジー思考 技術の価値を理解するための「現代の教養」

こちらもリアルで面識がある蛯原さん待望の著書。テクノロジーによって劇的に変化する人間社会を、主に、中国・アジア諸国の生活の変化から読み解く。アジア現地の熱い風をそのまま運んできたような良書である。伊藤穣一さんの9プリンシプルズで感銘を受けたようなアカデミックな社会変革の描写とは対照的だ。どちらも味わい深い。
本書は、「インターネット産業は成長産業ではない。成熟したレガシー産業である。」と衝撃的なオープニングから、流れるようなストーリー展開で、直近10年間の産業変革を紐解く。もうこの時点で痺れてしまう。
まず、インターネットのデジタル革命によって、広告およびコンテンツ産業が最もトランスフォームされた。次に、金融はそれ以前からのデジタル化・オンライン化が進み、既に後半戦に差し掛かっている。そして現在、「インターネットの外」で、テクノロジーによって既存産業・システムを再定義する競争が始まった。蛯原さんは、その激震地を「モビリティ」と「ヘルスケア」だと、いとも簡単に看破する。そして、「インターネットの外」の革命に並び、「地方革命」と「ソーシャルインパクト革命」を合わせ、3つのネクストフロンティアを提示する。
ここまでのストーリー展開は見事である。論理もクリアで、非常に読みやすい。

本書の真骨頂は中盤以降にある。中盤以降のストーリー展開は、一気に読みづらくなる。あちこちに論理展開され、世界情勢を勢いで描いている。だが、それでも、著者が読み解くテクノロジーとデータ至上主義経済の現場は、圧倒的なリアリティがあり、視座を引き上げられる。
米国、欧州、インド、中国と順を追って俯瞰してゆく。そこには、これまで日本のメディアが報じていない、純然たる事実としてのビジネスフロンティアがある。国家単位での産業育成、テクノロジーへの投資によって、都市単位での競争力が目まぐるしく入れ替わる。
すでに中国の官製スタートアップエコシステム・テクノロジーの計画経済的育成が、欧州源流の資本主義、米国的リベラルな市場原理主義を打ち負かしつつある現実は、だれもが受け入れているところだろう。同時に、著者は、米中貿易戦争と時期を同じくするテクノロジー企業の不祥事や逮捕・引退劇を「Something Wrong(どこかおかしい)」捉え、警鐘を鳴らすことを忘れない。そして、インド移民第一世代(印僑)に端を発した近い未来でのインドによる世界の覇権は、もはや既定路線として認識できるほどにリアリティを増している。

こんな激動の世界で、あなたは何をするのか?

そう問いかけ、締めくくられる。
本書で描かれる世界を認識してしまうと、もう以前の知らなかった自分には戻れない。ある想いが、頭の片隅でこびりついて離れない・・・。



まとめ(再掲)

本記事で紹介した読書体験は、7月、8月の2ヶ月間の話だ。この間、本当に濃密で幸せな知的体験だった。6月まで社内の再編や悩ましい対応ばかりで、数ヶ月間、会食もほとんど入れずに内政に注力してきた。それだけに、視座が下がり、沼に落ち、自分が閉じていく感覚に襲われていた。


たった9冊の読書で、世界がアップデートされた。


貪るように本を読み、各書の世界を縦横無尽に駆け回った。この体験を少しでもシェアできたら幸いである。


この9冊の本には、共通点がある。
それは、世界(社会)の大きな潮流を紐解き、自分がどのようにその世界(社会)に関わるか?という点だ。
1冊、また1冊と読了するたびに、点が線に繋がる感覚を味わった。
こうして出来上がった1本の線は、己の魂の世界から、企業、日本社会、世界競争、と凄まじい高低差を繋ぐものだ。





雌伏シリーズ;

仕事の変化(Business, Work, Vocation)

  1. たくさんのハードシングスがあった。
  2. 沈黙の裏で起こっていた、激動の5年間を振り返る。

yo4ma3.hatenablog.com



家族の変化(Family)

  1. 人生で果たすべきミッションが、アップデートされた。
  2. 新しい家族の話もある。

yo4ma3.hatenablog.com



健康の変化(Physical, Health)

  1. 食事、運動、睡眠、人間ドック、そして、心のメンテナンスについて

yo4ma3.hatenablog.com



スピリチュアルの変化(Spiritual)

  1. 昨年には、半年かけてエグゼクティブコーチングを受けて、自分の内面を掘り下げる作業もした。
  2. キャンプ・アウトドアにも目覚めて、自然に浸る喜びを感じるようにもなった。
  3. 前述のとおり、神仏の世界や、人生哲学についての勉強をしていた時期もあるし、一定の視点を育てられたように思う。

yo4ma3.hatenablog.com



知性の変化(Mental)

  1. 最近、家の積読を整理していて、何の気なく手に取り読む本すべてがドンピシャに当たっているので、少しだけ紹介しようと思う。

yo4ma3.hatenablog.com



お金の変化(Finance)

  1. お金と資産形成のお話です。勉強する前の若き日の自分に向けて、ポイントを羅列してみました。

yo4ma3.hatenablog.com



人間関係(Social)
(人間関係編に書きたいこと)

  1. んー、一番薄いかもしれない。この領域は自分として最も関心が薄いんですよね。