ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

サロン・ビジネスの肝

yo4ma32011-04-11
先日、なじみの美容師さんに髪の毛を切ってもらいに、下北沢まで行ってきました。
それまで、表参道の裏手の美容室で、1席間借りをする形で半フリーランスとして活動されていた方ですが、この度、下北沢で独立開業を果たし、様子見がてら行ってきました。
実は、下北沢は大学が近かったのですが、人生で1回か2回、しかも待ち合わせや乗り換え程度でしか行ったことがなく、東京8年目にして初めて商店街を回りました。


今回、その美容師さんが開業されたのは、変わった中世風マンションの1室で、いわゆる「プライベートサロン」風。中はメゾネットになっており、2階にシャンプー台がある変わった形のテナントです。
(写真はこちら


髪を切ってもらいながら、ぼーっと考えていたことを数回に分けて記事にしたいと思います。

プライベートサロンと美容室のビジネス構造・市場環境

基本的にプライベートサロンは、奥まった住宅街やマンションの一室が店舗となるために、新しいお客さんを店舗まで連れてくることが難しいビジネスです。僕のような過去の顧客基盤をベースに、口コミで少しずつ新規開拓をしてゆくのが普通です。
また、店舗スペースと損益分岐点の問題で働く人間は自分+1人、同時にさばけるお客さんも2名くらいが限界です。場所の制約からアップサイドの規模が効かない構造になっています。、
一方で、自宅を店舗にしてしまえば家賃もゼロとなりますし、店舗改装費も低く押さえることが可能です。


個人経営のサロンは、休みも取り難く、ウマ味の少ないビジネスですが、「自分のお店を持つ」という夢&チャレンジを達成できることは、非常に魅力的です。
こうした理由からか、特にネイル業界は、資格職業でありながら、趣味の延長上で、友人・知人を顧客ベースに、自宅やマンション一室を使ったプライベートサロンを開業される方は、毎年数多くいるようです
もしかしたら、将来的にお客さんが増えてきて、人を雇い、近場の商店街などに店を移して、営業規模を拡大することもできるかもしれません。こうした拡大を夢見て、段階的にプライベートサロンから始める方もいます。(プライベートサロンからのスピンアウトはほとんど聞いたことがありませんが・・・)
しかしながら、継続して売上を上げ続けることは難しく、1年以内に廃業してしまうサロンが大半と聞いています。


一方で、通常の美容室(仮に、パブリック・サロンと呼びます)は、基本的には立地勝負のビジネスです。人通りの多い商店街や駅前、デパート内に店舗を構え、チラシ、口コミ、自然流入など様々な入り口から顧客を集めるビジネスです。
店舗スペースもそれなりに大きく、アルバイト含め、美容師さんを複数人雇い、客の「回転率」をいかに上げられるかを目的関数に追求してゆくものです。
一方で、多くのお客さんを同時にさばくだけの店舗設備や、ゼロからの店舗改装となるために、多額の出店コストを必要とするのが通常です。好立地物件であればあるほど、家賃もケタ違いに重くなります。


皆さんも昔ながらの理髪店が、商店街の入り口などのもの凄く良い場所にあるのを見かけたことがあると思います。
しかしながら、ここ最近は、携帯ショップ、不動産チェーン、ドラッグストア、セレクトショップなど、比較的近い床面積の好立地物件を奪い合う競争相手が多数おり、なかなか路面店の1階を確保するのは難しいのが実態です。余程のコネや地道なネットワーク作りが無い限り、まずもって良い物件は、他業種の競合に取られてしまうと考えた方が良いでしょう。


また、毎年、何万人もの人が、美容系の専門学校や資格学校を卒業しています。当然ながら、業界内での競争環境も厳しいものがあります。美容系は、比較的、景気耐性のある業種ではありますが、実際のところ、多店舗展開を目指す企業は、低価格路線で女子高生・女子大生をメインターゲットに、渋谷、池袋、新宿、町田、立川といった繁華街で展開するケースが多いようです。銀座や表参道、代官山といったハイソな街でさえも、価格競争の波に飲まれているのが実態です。

サロン・ビジネスの肝

以上、述べてきたことをまとめます。


プライベート・サロンは、非常に閉じた空間で普通のサロン以上のサービスやおもてなし、空間、リラクゼーション等を訴求しながら、限られた固定客に対して細々と経営してゆく、ローコスト・ローリターンのビジネスと言うことができます。
このローリスク・ローリターンのビジネスを、より永続的に回し続けるためには、お金をかけて新規顧客をたくさん集めてくるよりも、一度来ていただいたお客さんにリピートしてもらうこと、お得意さんが他の店に行かないように丁寧にケアし続けることの方が大切です。
「固定客の維持・拡大」がビジネスの肝という訳です。


一方のパブリック・サロン(仮)は、アクセスしやすい場所、店の認知を高めるために人通りの多い場所、人の集まる場所などの好立地に店舗を配置し、チラシ、口コミ、自然流入など様々な入り口から多くのお客さんを集めることができる一方で、膨大な初期投資と維持コストが掛かる、ハイリスク・ハイリターンのビジネスと言うことができます。
お客さんは、一定の離脱率を許容し、それ以上にマーケティングコストを投下して新しいお客を連れてくること、そして、少しでも長く固定客でいてくれること、が大切となります。ホット・ペッパーで値引きクーポンを付けるなり、友達紹介で半額にするなどの施策は、とにかく、エントリー数を稼ぐために有効な打ち手です。
「好立地の確保」と「マーケティング・コストの継続投下」がビジネスの肝という訳です。


また、このビジネスでは、2店舗目を出す場合、美容室の担当者や、ついでに買い物ができる立地などに惹かれていた人はついて行きません。2店舗目は、全く新しい店を出すと考えた方が良く、その商圏範囲内に住む潜在顧客層に合わせたサービス内容、店舗づくり、マーケティング手法を取る必要があります。
規模拡大には、いかにサービス内容やクオリティを標準化し、定型的な出店フォーマットを構築できるか、も重要になってきます。
「サービスレベルの標準化」と「自分以外に店舗を回せる人材/ビジネスを展開できるサポート人材の育成・確保」も、次のステップを目指すためのビジネスの肝です。


要するに、プライベート・サロンは、1人の客を地道に獲得しながら固定客化することに力点が置かれており、パブリック・サロンは、新規のエントリー客をより多く稼ぐ方に力点を置いているビジネスであるということ。
もちろん、どちらの業態でも、新規獲得とリピート率アップは至上命題です。
客観的に分析したときに、商売の力点として、どちらが重要か?という意味で、ビジネスの肝と言っています。

これから参入する旨みはあるのか?

コンサルティング・ワーク以外に、僕が個人的に、ネイル分野のサロンビジネスについて研究を進めていたこともあり、話すネタは山ほどあります。
特にネイルサロン業界では、以上に述べたようなビジネスの肝をわかった上で、規模の面でも仕組みの面でも、成功しているような企業は、残念ながらほとんどいないのが実態です。
有名なサロンでさえも、コンテストで優勝するようなカリスマネイリスト上がりの経営者か、或いは、自営業の延長で展開されているような場合が多く、いずれにせよ、小規模・小資本にとどまります。
プライベートサロンにせよ、パブリック・サロン(仮)にせよ、非常にフラグメントな市場というわけです。


美容、整体、マッサージ、アロマなど他のサロンビジネスも同様の市場環境にあります。
サロン経営に関するノウハウは、他業種に比べても洗練されているとは言いがたく、市販の書籍や経営セミナーもお粗末なものが多い印象です。


こうした非効率が存在する業界には、もしかしたら大きなビジネスチャンスが眠っているかもしれないなぁと業界を眺めていますが、ネイルサロンは美容室よりも1人あたりの拘束時間も長い人工(にんく)ビジネスで、スケールが効かない難しい業態です。まだ有力な仮説は見つかっていません。
次回は、こうしたビジネスの肝を考えるにあたって背景となる、サロン経営の売上ドライバー(「回転率」)に絞ったお話をエントリーにしたいと思います。

ご紹介

最後に、今回登場してもらった美容室をご紹介しておきます。


「aulii(アウリィ)」
東京都世田谷区代沢2-30-19
パワーハウス202


TEL: 03-6804-0663
FAX: 同上
E-mail: aulii@crecseendo.com


elenaさん宛まで。
まだ開店間もないのですが、ブログもやっていらっしゃるようです。
http://ameblo.jp/aulii33/entry-10843948740.html