ウォールストリート投資銀行残酷日記〜サルになれなかった僕たち〜
休暇中の息抜きに、「ウォールストリート投資銀行残酷日記〜サルになれなかった僕たち〜」を読みました。
1990年代半ばにMBAを卒業し、投資銀行に勤め、2〜3年で辞めた著者2人の交換日記形式のノンフィクションです。
ウォールストリート投資銀行残酷日記―サルになれなかった僕たち
- 作者: Peter Troob,John Rolfe,ジョンロルフ,三川基好,ピータートゥルーブ
- 出版社/メーカー: 主婦の友社
- 発売日: 2001/04
- メディア: 単行本
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サルになれなかった僕たち―なぜ外資系金融機関は高給取りなのか
- 作者: ジョンロルフ,ピータートゥルーブ,John Rolfe,Peter Troob,三川基好
- 出版社/メーカー: 主婦の友社
- 発売日: 2007/04/01
- メディア: 文庫
- 購入: 6人 クリック: 104回
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辞めてしまった著者だからこそ、米国の投資銀行の魑魅魍魎なる世界を、あけすけに語っている。気分爽快な小説のような内容です。コンサルティング業界と比較しながら読むとなかなか面白く、投資銀行に就職や転職を希望する人は1度は読んでおくべき本でしょう。
コンサルと投資銀行は、MBA卒の2大就職先で、世間一般には何をしているのかよくわからない金儲けの業界だというイメージが浸透しています。また、一括りに「外資系金融機関」(投資銀行を含む)と言っても中身は様々で、違いのわからない人も多いと思います。本書の後半に転職の話が描かれていますが、これだけ酷い目に会った著者自身も、転職先はヘッジファンド。金融の世界を出ていません。
投資銀行とヘッジファンドでは、仕事内容に天と地ほどの違いがあります。ちょっとだけ説明しておきましょうか。
簡単に言ってしまえば、ヘッジファンドは資金を運用するための意思決定が仕事、投資銀行は資金の需要と供給を橋渡しするのが仕事です。
ファンドはより儲かる先に投資したい一方、投資銀行はとにかく手数料を稼ぐためにビッグディールを成立させたい、こんなインセンティブをそれぞれが持っているので、時に、両者の利害は相反します。近年、投資銀行も巨大化し、運用部門が稼いだり、自らが資金を出してファンド的に動くことも多くなってきたので、明確な線引きは難しくなってきています。
さて、内容に関して。
この本の著者から見た投資銀行業界は、くだらない書類作りで週100時間労働、奴隷のような扱いを受け、自分の頭で考えることを忘れるようにしつけられたと言います。それでも年俸は20〜40万$貰えてしまうために、抜け出すことが難しかったようです。
日常の葛藤や、上司とのやり取り、仕事の進む様を、悪態を吐きながら面白おかしく描いているので、非常に共感を覚えます。彼らは最終的に、こうした生活に耐え切れなくなり、人間的な生活を取り戻すべく退職の道を選びます。
本書を読み終え、単純に彼らの言うことを信じてしまうと、「なんて酷いところだろう」と思うことでしょう。
もし、彼らが、いまでも投資銀行で活躍する生え抜きのファスト・トラッカーだったら、同じように物事が見えていたでしょうか?
実は、彼ら自身も投資銀行を辞めたことをうまく整理ができていないようで、いまでも互いに正当化し合って確かめていると言っています。本書の中でも度々、投資銀行のマネジメントクラスの豪華な暮らしは「砂上の楼閣だった」「エサをぶら下げられて夢見たが幻想だった」「のぼせていただけだった」などの表現が出てきますが、結局は自分たちの見込みが甘く、昇進のために上司におべっか使うのはこれ以上無理だったということです。
彼らがLoserだったか否かというよりも、投資銀行のカルチャーが彼らの価値観には合わなかった、そう解釈すべきなのだと思います。
本書は、著者2人の視点から投資銀行の「ある一面だけ」を垣間見ることができます。
これから投資銀行に就職・転職を希望される方でしたら、この本を読んで「面白かった」「酷い業界だ」と単なる感想を持っていては駄目で、まずはきちんとファクトと意見を区別しならが、読み進めること。著者の主観に惑わされず、ファクトだけを集めて、自分ならどう解釈するのかを考えること。雑多に記述されているので、良い教材になると思います。
加えて、当然、投資銀行の価値観に合う人材も世の中には存在します。本書の中にも、こうした社内の競争を勝ち抜き、尋常ならざる速さで駆け上がっている上司が登場します。この上司からしたら、豪華な暮らしが現実のものであり、相応の努力を通じて手に入れたものだと感じていることでしょう。本書の登場人物の各々の視点で考えたときに、投資銀行での生活はどんなものに映るでしょうか?想像を巡らせることが大事だと思います。
ある同僚の話
翻って、コンサルティング業界はどうかと言うと、日本に限っては、もっと知的で・エキサイティングな環境が待っていると言えます。ファームのカルチャーにも拠りますが、メンバーレベルの裁量は無限大で、上司やクライアントに対して意見を述べることが積極的に推奨されています。但し「日本に限って」と但し書きをしたのは、海外では国によって事情が異なるからです。
海外オフィスにトランスファーしている同僚からは、
「日本人が遅くまで働いてるのは、効率が悪いからだと思われている。冗談かと思ったが、結構、本気で、かつ、根強い意見だよ」
「彼らは遅くまで働くけど、全然見当違いなことをやってるメンバーもいる。結構細かく見ないときつい。」
なんてことも聞いています。少なくとも本書に描かれる投資銀行のように、上から言われたことだけをやっていれば良い受動的な文化ではなく、裁量は大きいようですがクオリティにバラつきがあるようです。
彼に言わせると、
「海外オフィスの人材も優秀だけど、日本に比べて同じタイトルでも1ランク下のロールをやってる。それで良しとされてるんだ。Japanオフィスの人材は総じてレベルが高いよ」
と。かなり極端な例ですが、海外オフィスとコワークしていて確かになぁと思う点も多々あります。
この同僚が一緒に仕事をしている部下を、無理やり本書の著者2人に見立ててみたら、どうなるでしょうか?
コンサルティングファームは、投資銀行ほど羽振り良くお金をばら撒くようなことはしませんし、年俸も1/2〜1/3程度でしょう。
労働時間は似たようなものです。特に最初の1〜2年の立ち上がりには苦労する人が多くいます。
しかし、やりがいだけは上回るでしょう。著者2人が憧れる、頭を使ってナンボの世界です。
この前提を踏まえた上で、、、、残念ながら、本書のような一面的な見方をした本を書けてしまうのではないか、と危惧しています。
個人的にも、いま自分の経験をこうしてブログに書けることと、2-3年目に書けることは、全然違うという実感があります。自分の人生のステージ、会社の中で置かれた状況、プロジェクトの経験値などを通じて、その時々の刹那的な見方しかできないのは事実です。この本を読んで真っ先に思ったのは、こうした一面的な見方をしているのではないか、ということです。
バランスをとるためにも、以下のような本も合わせて読みながら業界研究することをお勧めします。
- 作者: 西村信勝
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2005/02/17
- メディア: 単行本
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- 作者: 保田隆明
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2006/09/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: 黒木亮
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/10/25
- メディア: 文庫
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