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ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

こころを動かすマーケティング(魚谷雅彦)

Book / 読書 Consulting work / 仕事

本ブログの過去記事を読んでいて、ここ3年、ほとんどマトモな記事を書いていないことに気づきました。
日々のアイディアや考えは、気軽にTwitterFacebookにさらけ出すように心がけているので、ぜひともざっと読み流してもらえると、それなりに楽しめると思います。


さて、最近は、またも面白いプロジェクトに立て続けにアサインされており、ブランディングやマーケティング関連の本で、部屋が溢れかえっています。そこに、組織論や営業/チャネルに関するものも混ざり、ある種、コンサルティングの面白いテーマ総特集になっています。なるべく仕事以外の本も読むように注意していますが、どうしても仕事に関連するテーマやその周辺テーマに偏るのは仕方ないと半ば諦めています。


そんな中で、「こころを動かすマーケティング」(魚谷雅彦)をご紹介。日本コカ・コーラで社長を勤め、現会長である魚谷氏の有名な本です。


発売された当初からマーケティングに携わる人間は、皆読んでいる定番本です。僕も当時読んでいたのですが、今回誤って2冊目を購入してしまいました。
経営者の言葉を味わいながら、さらっと読めてしまう軽い本ですが、本質が凝縮されています。

飲料業界のマーケティング

飲料業界の事情について、ビジネス系の雑誌・メディアで取り上げられることも多く、ご存知の方も多いことでしょう。
国内の「消費財」業界のマス広告投下量で見ると、飲料、化粧品、自動車、が3大領域と言われます。(業種別広告費で見ると、個別に電機・通信も入ってきますが)
ただし、同じ広告費何百億を投下していても、商売の実情は大きく異なります。


飲料メーカーは、1本100円単位のものを、世の中の幅広い層に売る商売です。
同じく、マス広告費を大きく投下している自動車メーカーでは、高額で、かつ、機能性の高い、耐久消費財を売る商売で、相対的にターゲット層は狭く設定できます。ただし、ドライビング性能などを実感できる消費者はごく一部で、一般的には、価格見合いの居住スペースのインテリアや用途に応じて、ブランドが選択されます。高額になればなるほど、道具としての所有欲も大きくなるため、ブランドのイメージが大切になります。
化粧品は、機能性の高い商材で、本人が使用感を実感しやすいことが特徴です。しかし、(特にコスメでは)消費者は自分が求めるものを明確に意識していない場合も多く、ブランドのイメージや情感価値で「憧れ」を醸成しながら売る商売です。ターゲットは、年代や消費者のタイプごとに細かく分類され、広告クリエイティブは、訴求ポイントを限界までクリスタライズします。


要するに、それぞれ消費者からの“選ばれ方”が大きく異なるということ。とすると、マーケティングのやり方自体も、業界特性に応じて全く異なることがわかると思います。
飲料では、マスプロモーションで以って、一気に売り切りカテゴリートップを築く戦略が王道の勝ちパターンです。小売店の棚をいかに広く・長く確保できるかがブランドの売上を決めるからです。また、顧客のブランドロイヤリティを築き易さの点で、飲料分野は、高価格帯のワインやウィスキー等を除き、非常に難しいことも、理由の1つです。(個人的には、毎日、ブラックコーヒーの500mlを飲んでおり、メーカー/ブランドには相当なこだわりがあります。ビールもこだわります。)


ざっと、飲料業界がどういうものかイメージいただけたでしょうか。


次に、本書で主役となるコカ・コーラについても。
コカ・コーラは、デジタル/ソーシャル領域では、コカコーラパークという会員規模1,000万人以上を抱える全ブランド横断のプラットフォームを構築していることで有名です。この取り組み自体が本当に収益につながっているのか、業界内でも賛否両論あります。個人的にはメーカーが直接、顧客接点を握る意味で、日本の飲料業界においては、コカ以外は成し得ない非常にクレバーな戦略に見えます。
また、コカ・コーラは、日本の自販機の約半数を握り、業界慣習を破り、独自の流通網を構築しています。自販機でのブランド体験醸成(面白い自販機)と、実を取る携帯との連携は、非常に相性の良い戦略です。
もう少し詳しく言うと、コカ・コーラという会社自体は、コーラの原液を売る商売で、「ボトラー」という特殊な生態系を築きながら、製販を分離し、本社はマーケティングに特化した企業の体を成しています。日本の飲料メーカーが酒と飲料の双方に事業ドメインを置く中で、飲料のみに集中特化していることも特徴です。
グローバルの飲料市場では、Pepsico、A-B Inbev、Heinekenなど、飲料、または、酒類のどちらかに特化している企業が世界を制覇しています。日本はキリンがかろうじて売上規模で4位につけていますが、世界中のメーカー再編が起きており、規模で勝負する世界となっており、既に勝負は着いてしまった感があります。


飲料メーカーの置かれた環境を乱暴にまとめると、国内では、1本100円の商品を、膨大なマスプロモーションによって売り切る商売をしながら、グローバルで見るとM&Aで規模を追求する競争ルールにある、ということです。

7つの黄金律

さて、本書の内容にも触れてゆきます。
本書の肝は、優れたマーケッターなら、誰もが実践している「7つの黄金律」です。

  1. 顧客は見えているか
  2. 現場に足を運んでいるか
  3. 飛び抜けた商品を提供できているか
  4. 最後までやり抜いているか
  5. 人の心を動かしているか
  6. 関係者を巻き込んでいるか
  7. 常識にチャレンジできるか

顧客の声を聞く。
この7つの問いの根底にある思想です。


私もプロジェクトの中でよく顧客インタビューやフォーカス・グループ・インタビューなどを通じて、顧客や消費者の「ホンネ」を聞き出すことを行います。時には、地方を巡業しながら、ベテラン社員の方やお取引先、一般的に「ロイヤルカスタマー」と呼ばれるお客など、クライアント企業の現状課題や戦略仮説の検証のために、1つのプロジェクトでトータル50本以上もインタビューをこなすようなプロジェクトもあります。
これまでに、何百本ものインタビューをこなしてきましたが、毎度感じることは、強烈な仮説を持っていればいるほど、たとえ仮説が反証されようとも、発見が多く、新たな仮説を生み出すことができる、ということです。


「仮説」という言葉は、クライアント企業さんからも普通に出てくるほど、世の中一般に広まっています。
本当に練られた「仮説」は、骨太なファクトに支えられ、昇華されたメッセージとなって立ち現れます。
単なる思いつきではありません。異なる分野で起きている様々な事象までも思考を巡らせ、消費者に関する深い洞察、商品に対する本質的な理解に裏打ちされています
しかしながら、広告業界や消費財のマーケ/宣伝担当者の方に話を聞くと、「xxxというのが仮説だ」と言った後で、必ずといって良いほど「近年は、これまでの調査のやり方では、消費者の「ホンネ」が聞き出せなくなってきた」と口を揃えておっしゃいます。確かに、日本の消費者は、こうした消費者調査に慣れきってしまい、メーカー目線でアドバイスを言い出す人や、メーカーにとって耳障りの良いことしか言い出さなくなってきています。私自身も消費者インタビューの中で、度々、こうした状況を目の当たりにしています。
それでも、この通り一遍の言葉を聞くたびに、ある種の受動的なニュアンスを感じてしまい、「仮説」という言葉が悲しく響いて聞こえてきます。


一流のマーケッターやクリエーターは、担当のプロダクトにおける消費者の購買行動や消費行動だけでなく、消費者のライフスタイル全般の変化を捉えていると言います。消費者の本質を捉えられていない的はずれな“仮説もどき”を持って、受動的に消費者の声を聞きに行っているのでは、到底辿り着けない領域です。
誰もが一流のコンサルタントのような「仮説」を作れるようになる必要はないと思いますし、100%当たる「仮説」なんてのも作れません。
ただただ、顧客の声の本質を見抜く目を養うこと。わかるまで、徹底的に考え尽くすこと。


7つの黄金律を見ながら、こんなメッセージを受け取りました。
マーケティングに関わる方は、この問いの言わんとする本質を頭に叩きこんでおきましょう。

こころに残った言葉「マーケティングとは、「明日」のために行うもの」

最後に、再読によって、新たな言葉がひっかったので、それらを紹介して終わりにします。
以前はさらっと読み流していた、“当たり前”な文章が多いですが、1つ1つ味わい深いものがあります。


《環境認識》

  • コカ・コーラという商品は、「intrinsic value」=基本的な価値は100年以上変わっていない、「extrinsic value」=付帯的情緒的な価値こそを時代にあわせて大きく変えてきた
  • ブランドのベースは、「時代観」(中略)その時の気持ち、すなわち、消費者のインサイトに合わせ、ブランドと人の絆の借り方は、大きく変わってゆくもの
  • 「extrinsic value」=心が動かされる価値の創出
  • 競合他社から市場を奪うのではなく、新しい価値創造によって、清涼飲料のマーケット全体を大きくしていこうという発想。トップ企業ならではの王者の発想
  • 背景には、水分の「share of stomach」(胃袋のシェア)という考え方がある。人間が水分を摂取するとき、食べ物が40%、それ以外60%、ただし、商業的に得られているものからの水分は数%に過ぎない

コカ・コーラは、飲料市場をshare of stomach の概念から成長市場と位置づけ、その上で、マーケットリーダーとしてexextrinc valueで差別化を図りながら、市場を創造している、ということです。
大事なので繰り返します。
share of stomachを考えると、日本はまだまだ成長市場である」「市場を創造する」いづれも、国内市場だけを捉えているだけでは、生まれにくい発想ではないでしょうか。
ましてや、これが会社としてコンセンサスを得られている考え方だとしたら、国内メーカーが太刀打ち出来ない理由がよくわかる気がします。個人的には、非常に衝撃的なフレーズでした。


《マーケモデル》

  • 「ペネトレーション」と「フリークエンシー」によって、消費頻度を上げてもらうことがマーケティングの基本的な考え方です。

広告業界では、リーチとフリークエンシー、という考え方となります。


《インターナルブランディングの重要性》

  • 社内を盛り上げるという意味でも、ブランドは重要
  • 「インターナルマーケティング」あるいは「インターナルブランディング」、社内や内部関係者の気持ちを1つにし、価値観を共有してゆくマーケティング

マス広告の投下は、いわゆる関係者向けの役割も大きいものです。特に営業向けには、自分の売る商品がガンガンCMしていたら、それだけの会社としての気合いの表れと感じるでしょうし、実際に、商売トークも弾むものです。
一方で、1つ1つのブランド全てに大量のマス投下できる訳ではないのも事実です。
一般的な事業会社では、営業と事業サイドの力関係の中で、建設的な意見を交わす関係を築くことも難しく、大企業となると販社が子会社となって、別会社となっていることも多いです。
会社が大きければ機能組織も大きくなる一方で、会社を跨ぐだけに、連携も薄くなりがちという問題を抱えることになります。
そんな中で、社内を結びつけるために、インターナルブランディングを行うことが非常に重要となります。


《差別化とは》

  • 「平均点」の発想で汎用的なものを作っていては、独自のポジションが築けず、消費者から評価されない
  • 行うべきは、差別化が図れる、どちらかのサイドに明快に寄った突き抜けた商品
  • ターゲットはかなり絞り込んで商品を作り込むべき。あまりにターゲットを絞り込むと、一見売る対象が狭くなってしまうように思えるが、それは「今日」の話。マーケティングとは、「明日」のために行うもの
  • 必要なのは、今日の人たちをコアターゲットにし、彼らに受け入れられるものを作り、ブランド価値を主張してコミュニケーションをすること。その周辺には、理解者が確実に増える
  • まずは小さな器をイメージして、その器に入れることにこらわり続ける。いつの間にか器から溢れていることに気づく
  • 逆に、最初から大きな器をイメージして、それを一杯にすることを考えると、弱いメッセージしか送れなくなる危険

企業の実際のマーケティング現場を見るにつけ、実態は、この言葉で読むほど簡単ではないと思います。
プロジェクトでも、ブランドの担当者と商品のポジションイングについて議論させて頂きますが、そこまで思い切った独自性を追求し、ターゲットを絞り込んで良いものか、毎回悩みます。売上責任を持つブランドマネージャーが、そこまでターゲットを絞り込んでしまうのは、売上予算を達成できないリスクを感じる以外の何ものでもないからです。
この哲学を組織として定着させられているとしたら、本当に凄いことです。


《消費者の声を聞く》

  • ビジネスプロセスの起点は「お客さま」であるべき
  • 企業にとっては、イノベーションとマーケティングが経営の両輪であり、営業、販売機能がないことが理想
  • お客さま起点のしっかりしたマーケティング組織を作ることが出来れば、そもそも販売や営業といった概念が不要
  • セールスもマーケティングの一環であるべき

企業の思いを伝えるだけの「コミュニケーションデザイン」でなく、「マーケティングリサーチ」「マーケティングインサイト」(=消費者の思いを察すること)が重要になってきました。


《マーケティングに対する考え方》

  • 広告やマーケティングは、「費用」ではなく「投資」
  • ブランドを育ててゆくための、マーケティングは投資活動であり、投資であるからには、最大のリターンを求める
  • 毎年の予算配分も、ゼロベースで行い、戦略に対する最適な予算を考える
  • 広告代理店とも、メディア購入とクリエイティブを分け、仕事の質量に対してフィーを支払う「フィー制度」を導入

これも衝撃ですね。
日本の広告代理店が圧倒的なパワーを持つ業界構造の中で、一.広告予算をゼロベースで立て二.「フィー制」を導入して、三.広告費のROIを徹底的に検証する。この3つを実現できている日本企業がどれだけあるでしょうか・・・。


《人の心を動かす》

  • マーケティングは人生そのもの
  • 人をドキドキさせたり、驚かせたり、笑わせたり、感動させたり・・・・。人の心を動かそうと意識しながら日々を過ごしていくこと
  • 人の心を動かすことが、当たり前の感覚になっている
  • モノの売れない時代に、買い手の心を動かすようなモノやサービスを、買い手が思わず買いたくなるようなマーケティングプランを作ってきたか?

個人的にも、周囲の人をハッピーにできる人間になろうと強く思います。


参考本

魚谷氏のブランドに対する考え方は、非常に参考になります。

会社は変われる! ドコモ1000日の挑戦

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また、Twitterでも強烈にプッシュしましたが、ケロッグ大学院の本とダニエル・ピンクの本は秀逸です。

ケロッグ経営大学院 ブランド実践講座―戦略の実行を支える20の視点

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売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則

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ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

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ブランディング22の法則

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マーケターの知らない「95%」  消費者の「買いたい!」を作り出す実践脳科学

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  • 作者: A・K・プラディープ,A. K. Pradeep,ニールセンジャパン,仲達志
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