ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

ケース面接で大切な「収益ドライバー」の概念

yo4ma32011-04-14
先日、美容院に髪切りに行ったついてでに、サロンビジネスの肝について記事にしました。(記事はこちら
「ビジネスの肝」を特定するためには、ケース面接でお馴染みの「収益の分解公式」を考えるとわかり易いと思います。
つまり、ビジネスを方程式と捉え直すメソッドです。
社長が毎日、頭の中で考えている、経営の計数をP/Lのみで簡易化して捉えたものとお考えください。


このメソッドは、ケース面接でも非常に重視される思考方法です。
入門編として、売上のドライバーについて、記事にしたいと思います。

回転率という概念

さて、一般の美容院(パブリック・サロン(仮))の売上ドライバーとして挙げた「回転率」について。
この概念は、非常に面白い概念です。
コンサルティングファームの採用で出題されるケース問題を解かれたことがある方は、ご存知だと思いますが、


売上=「ある制約のかかったキャパシティ(数)」×「回転率」


と分解して考えることができます。
この分解では、売上を上げるためには、キャパシティを増やすか、回転率を上げるかしかない。という意味です。


小売や外食では、日常の事業経営を考える上でも頻繁に使われる、典型的な概念です。
例えば、八百屋。美容室同様に、立地商売で、“商品(棚)”の回転率をいかに上げるか?が、ビジネスの肝となります。コンビニでも同様ですね。
外食であれば、座席数×座席の回転率となります。
いづれのパラメーターについても、向上施策を考えることが可能でしょう。


一方、プライベートサロンの形態では、キー・ドライバーが変化します。
当然、プライベートサロンも座席があるので、一定期間の中での回転率を考慮すべきビジネスではあります。
しかしながら、一度に客1人しか相手にできないようなときに、回転率を議論しても示唆がありません。
この場合には、


売上=「顧客数」×「客単価」


というオーソドックスな分解から、顧客セグメントをどう切って、AIDMAプロセスのどこを向上させるか?を考えた方が有益な議論ができると思います。
つまり、ビジネスの形態によって、考えるべき売上変数(=売上ドライバー)が変わるということです。

売上を分解する軸

では、他にどのような分解軸があるでしょうか?
例えば、

  • 「面積」: 面積×面積あたりの売上
  • 「時間」: 営業時間×時間辺りの売上
  • 「従業員数」: 従業員数×1人あたりの売上
  • 「営業マン」: 営業マンの数×1人あたりの売上
  • 「店舗数」: 店舗数×1店舗あたりの売上


などなど、数え挙げたらきりがありません。
時間軸についても、単位時間だけでなく、日、週、月、季節、年など軸のバリエーションが存在します。
場合によっては、レジ1台あたりの稼働率や、調理場の寸胴の稼働率で考えるべき外食ビジネスもあるかもしれません。

さらに分解する

実は、上述のような売上分解の方程式は、さらにもう1段、2段と分解することができます。
例えば、「顧客数」を分解するということは、セグメンテーションするということを意味しており、それこそ無数に存在します。
コトラーの「マーケティング・マネジメント」において、代表的な軸を4つ紹介しています。

  • 地理的変数
  • デモグラフィック変数(年齢、性別、所得、職業など)
  • サイコグラフィック変数(ライフスタイル、パーソナリティなど)
  • 行動上の変数(ロイヤリティ、ベネフィット、使用機械、ユーザーの状態など)


加えて、時間軸もまた重要な軸です。コンビニであれば、時間帯ごとの顧客数や季節性も考慮すべき論点です。
また、「客単価」も購買点数×1商品当りの平均単価、Σ(商品種類ごとの購入額)など様々な分解の仕方があります。

分解から有効な打ち手仮説を考える

これまで売上を分解する軸をいろいろ紹介してきましたが、
1つのビジネスでも様々な切り口から売上を分解し、その向上施策を考えることが可能です。
必ずしも上記に挙げた軸のうち、どれか1つだけで課題解決に繋がる訳ではありません。
その時々の事業環境や事業の性質に立ち返って、意味のある軸を選び出す必要があります。


実際のコンサルティング・ワークの中でも、初期の論点整理や仮説作りの際に、同様の地道な分解をしています。
コンサルタントとしては、数多くの軸を持つと同時に、ビジネスモデルを類型化し、パターン認識によって瞬時にビジネスの肝を握る能力が求められます。
さらに言うと、こうした軸による分解から、どれだけ面白い打ち手仮説を考えられるか?が大切なのです。
分解なんて、少し勉強すればできて当たり前のテクニックですからね。


また、有効な打ちて仮説を考える際には、ちょっとだけ思考を振ってみると面白いアイディアが浮かびます。
「仮に、客単価を100万円に設定したら、どういう打ち手まで考えるだろうか?」
「客数をいまの100倍にするとしたら、何をどこまで変える必要があるかな?」
という具合に、極端に思考を振ってみる、昔からよく使われるアイディア発想の技術です。


さて、皆さんがコンサルタントだったら、僕が行ったプライベートサロンの売上を、どのように100倍にしますか?
上記で紹介した、軸で分解する手法(=ロジカルシンキング)によって、面白いアイディアを考えてみてください。
さらに、考えた道筋を再構築して、論理的に説明してみてください。


コトラー教授『マーケティング・マネジメント』入門〈1〉 (ビジネスバイブル)

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