ignorant of the world -散在思考-

元外資系戦略コンサルタント / worked for a Global Management Consulting Firm in Tokyo

「戦略論の原点」Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年02月号

今回は、雑誌から。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 02月号 [雑誌]

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 02月号 [雑誌]

数ある「Harvard Business Review」のバックナンバーの中でも、「戦略」という言葉に目が留まる人に、最も薦めたい至高の一冊。
本書は、Harvard Business Reviewの創刊30周年記念特集の第二弾にあたり、戦略論の大家たち(ミンツバーグやポーター、アンゾフ、チャンドラー、大前研一など)が過去に寄稿した論文の中で、特にエッセンスの詰まった代表論文を集めたものだ。
経営戦略について、多少なりとも興味のある方は、この本を読めば戦略論の古典とも言える論文にざっと目を通すことができる上、引用や出典元を辿ることでさらに勉強することができる。



私がこの本を買ってよかったと思った理由は、2つある。


ひとつは、以下の2つの論文に出会えたこと。

  • ヘンリー・ミンツバーグ『Crafting Strategy(邦題:戦略クラフティング)』
  • ルフレッド・ラパポート『Ten Ways to Create Shareholder Value(邦題:悪しき株主価値経営からの脱却)』

特に、ミンツバーグの論文は、毎日読んで暗記したいくらい「貴重な示唆」に富んでいます。その完成度も半端ない。コンサルタント」を目指す人、経営に関心のある人は、絶対に一度は読むべき論文である。(詳細は後述。)
ラパポートの論文は、改めて「株主価値創造」について考えさせられた。ウォレン・バフェット率いるバークシャー・ハザウェイを例に挙げ、まとめられた10の原則は常にレファレンスしたい点ばかりだ。
また、誤解のないように言っておくけれど、他の論文も戦略論の歴史や背景を知り、その一長一短を学ぶ上で、選りすぐりの名論文ばかりである。特に私が感動した2つの論文を挙げたに過ぎない。これは、実際に目を通していただく他に、証明のしようがない。


もうひとつは、その翻訳レベルである。
もともと英語で書かれた論文は、専門用語と簡単な文法で、非常にロジカルに書かれている。その良さを損なうことなく、すんなり理解できる自然な日本語に翻訳されていることに、素直に感動した。掲載されたポーターの論文は、割と長く、自己完結型で、読んでいて正直つまらない。当事者になれば、これほど優れた「まとめ」はないのだけれど。それでも頭に入ってくるのは、そのロジカルな構造ゆえのことだろう。さすが、「Harvard Business Review」。

ヘンリー・ミンツバーグ『Crafting Strategy(邦題:戦略クラフティング)』

くどいのは承知の上で、繰り返す。本論文は


コンサルタント」を目指す人、経営に関心のある人は、絶対に一度は読むべき論文である。


本論文に目を通したか、通していないか、短期的な違いは現れないだろう。
が、本論文を読むことで開ける視界があまりにも大きい。
少なくとも私の場合は、文字通り「目を開かれる思い」を経験したし、今後仕事をする上で「重要な視座」を得ることができた。


では、中身に関して、自分用のメモも兼ねて、まとめてみる。
ミンツバーグの提示する「重要な示唆」は、

戦略とは、意思決定(のちには行動)プロセスに見られるパターンである

という一言に尽きる。そして、戦略形成プロセスを一人の陶芸家に例える。
この比喩には、舌を巻いた。本書の言葉を借りると、マネージャーも、

戦略という粘土を材料に、「自社のケイパビリティという過去」と「市場の可能性という未来」の狭間で、戦略を工芸的に創作していかなければならないのである。

フォルクスワーゲンの車種の変遷を挙げ、フロイト的な深層心理との関係を暗に示しながら、「意図された戦略」に疑問を呈する。
従来の戦略立案=「論理的に計画するプロセス」という常識を覆し、

戦略は、試行錯誤しながら形成されていく

との指摘は、鋭すぎる。時には、実際の行動や経験を通じて戦略が自己形成されることを認めよと。
ここまで読んで、既にうなってしまった。


が、論文はさらに倍続く。
実際の、戦略クラフティングの方法論の領域まで踏み込んでいるのである。
本論文で挙げられたのは、

  • 創発戦略(emergent strategy)』
  • 『アンブレラ戦略』
  • 『プロセス戦略』


である。詳しい説明は本書に譲るとして、
複雑系」という学問に留まらず、既に修辞語と化した『創発』という言葉に注目してみる。
ウィキペディアによると、

創発(そうはつ、emergence)とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ちなみに私は、この「無限の相互作用」の結果とも取れる定義に、


秩序とカオスの間にある「カオスの縁(ふち)」


のイメージを重ねて理解している。正確にはその生成過程のイメージなのかもしれないけれど。うまく言語化できないので、いつかチャレンジしてみます。or 専門家に聞いてみたいと思います。*1
閑話休題
この『創発』という言葉と、最初に述べた『戦略とは、意思決定(のちには行動)プロセスに見られるパターンである』という定義がぴったりとリンクする。
そして、論文では、

  • 量子論的飛躍論』
  • 『戦略革命』


へと話は続き、最後に

優れた戦略を創造するために

と題して、一章を割いている。

戦略家は、「プランナー」であり、「ビジョナリー」である。
これに加え、「パターン認識者」あるいは「学習者」である。

とし、

  • 安定性を統御し、変革を起こすべきタイミングを知ること
  • 組織に将来甚大な影響を及ぼしかねない、かすかな非連続を察知すべく、ひたすら状況と接触し続けることで、その観察力を研ぎ澄ますこと
  • 創発してくる各種パターンを認識し、マネジメントすること
  • タイミングを正しく認識し、変化と連続性を融合させること

以上のことを求めている。

「偉大なる経営論」Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年11月号

また、こちらは、長編論文というよりも、『マネジメントの真実』と題して、HBR名著論文30選をまとめて紹介してくれている。こちらも購入済みで、ぜひ合わせて読んでおきたい。
本書に出てくる、ミンツバーグの似顔絵もおもしろい(笑)私も、移動時間中に気軽に読んでいる。
▼Harvard Business Review 創刊30周年記念特集 第一弾

*1:創発の定義については、スタンフォード哲学百科事典が詳しい。