IT企業、新卒採用苦戦の理由は「仕事のイメージが悪い」は本当か?
IPAフォーラム2007に参加しての雑感でも、ご登場いただいて、直接お会いしたこともあるIPA理事長の藤原武平太氏のインタビューが・・・火に油注いでいます。完全に逆効果。
1点目。
当のIT企業が新卒採用の課題として挙げた答えのトップは「業界の仕事のイメージがよくない」だった。
IT企業、新卒採用苦戦の理由は「仕事のイメージが悪い」 - @IT
原因分析がそもそも間違っている。
業界のイメージのせいやら、学生の量や質やら、他のせいにするのはいいけれど、まずきちんと『リクルーティングに失敗している』って事実を認めてください。原因分析はそれからで。そもそも、採用する側が「業界の仕事のイメージがよくない」って思っていたら、学生だって行きたくないし、イメージは会社が判断すべきことではないわけで。ちゃんと学生に聞いていてください。「なんでIT企業*1に行きたくないのですか?」と。
そうしたら、大半の学生はきっとこう答えるでしょう。
「IT企業ってベンチャー?」と。
所詮、ふつうの学生にとっては、その程度の認知度だと思いますよ。もしくは知っていても、就活の時点で「選択肢に入らない」わけです。ベンチャーのイメージが先行してしまうのは「認知度の問題」で、就職の選択肢に入らないのは「業界・企業の魅力の問題」です。これらは、分けて考えるべきですし、他にも原因はさまざまあるでしょう。それは後述します。
2点目。
IT業界のイメージをアップについては「別の調査ではエンジニアの3分の2近くが仕事に意義を感じている。業界として、トップからもそういうことを発信していくべきと思う」
IT企業、新卒採用苦戦の理由は「仕事のイメージが悪い」 - @IT
解決策が「トップメッセージ」ですか?
「イメージ」が「トップメッセージ」で決まるんですか?
この論理の飛躍さ加減には、もう呆れるしかありません。往々にして、大企業の社長さんで認識が間違っている上に、打ち手を間違えるのはこのパターン。これではいつまで経っても、改善しませんよ。
3点目。
はてぶのコメントにもありましたが、4位以下が学生批判・・・ってのも問題ありだと思います。
どんな学生像を想像しているのでしょうか?即戦力?バカ言っちゃいけない。優秀な学生?彼らが魅力を感じて集まる会社が、いったいどれだけあるのでしょうか?アンケート結果からは、育てる気がないだけにしか見えません。
あと、怒りの矛先はIPAに行くんだけど、複数回答アリのアンケートに、この選択肢を作っている時点でなんだかな〜と思ってしまう・・・。この姿勢からどうにかして欲しいものです。
新卒採用苦戦の理由をMECEに分解してみる。
で、こっから本題なんですが、新卒採用苦戦の理由をMECEに分解してみようと思います。そこから解決策の糸口が見えるかなぁと。まず、「新卒採用苦戦」=「採用人数が目標達成困難」と読み替えます。すると、メーカーや小売の売上と似た形に分解できそうです。その辺を念頭において、、、
では、そもそも、採用人数は何で決まるか?
▼エントリーまで分解
(エントリー数)=(毎年の新卒学生の人数)×(新卒市場におけるIT業界の占める割合)×(業界内シェア)
▼内定〜入社人数まで分解
(採用人数)=(エントリー数)×(優秀な学生の割合)×(採用の成功率)×(内定の承諾率)
「イメージが悪い」って話は、イメージが悪いせいで「新卒市場におけるIT業界の占める割合」が低くなっているということ。業界不人気説とも言えます。
一方、「学生の量や質」に関しては、「エントリー数」「優秀な学生の割合」の話になるでしょう。
果たして、どこで一番問題が起きているのでしょうか?
市場規模
新卒の学生数が減少してきているのは事実です。が、それはどの業界にも等しく影響します。
むしろ、厚生労働省の発表によると、大卒の就職希望者数は増えているのです。
市場規模は問題なしというわけ。
人気度とエントリー数
次に、「採用サポネット」という秀逸なサイトがあるので、ここの情報を使って、少し検証してみます。n=1,099のアンケートです。
まず、この「業界イメージ調査」を見てください。(フレーム内で移動するのでURLがない!shit!!)
▼以下、ソフトウエア・情報処理のみ抜粋します。
1.各業界に対し、実際にエントリーした比率:昨年との比較(文理男女別)
2.各業界に対し、実際にセミナーに参加した比率:昨年との比較(文理男女別)
3.各業界に対し、実際に受験した比率:昨年との比較(文理男女別)
全体 | 理系男子 | 理系女子 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
rank | point | 前年比 | rank | point | 前年比 | rank | point | 前年比 | |
項目1 | 7 | 32.70% | -1.20% | 4 | 36.00% | 0.60% | 4 | 30.30% | -1.30% |
項目2 | 7 | 25.60% | -0.60% | 3 | 31.40% | 3.60% | 4 | 23.30% | -3.20% |
項目3 | 6 | 21.90% | -1.10% | 4 | 27.70% | -2.80% | 4 | 20.10% | 4.80% |
表は理系のみです。
項目1:エントリーは、前年比約1%落ちていますが、誤差程度でしょう。なので、不人気説はアウトです。横ばいが正しい。そして、項目3:受験率は、理系男子が落ちて、理系女子が上がっている。これは、項目2:セミナー参加率と逆の減少が起きているので、もしかしたら、エントリー・セミナー〜受験までに問題があるのかもしれません。
さらに、文系を見てみると、こちらは人気が落ちているようです。エントリーが落ちているのは問題です。
全体 | 文系男子 | 文系女子 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
rank | point | 前年比 | rank | point | 前年比 | rank | point | 前年比 | |
項目1 | 7 | 32.70% | -1.20% | 10 | 33.30% | -3.10% | 15 | 31.70% | -1.40% |
項目2 | 7 | 25.60% | -0.60% | 10 | 26.50% | 0.90% | 15 | 22.70% | -2.70% |
項目3 | 6 | 21.90% | -1.10% | 10 | 22.30% | 0.80% | 14 | 19.20% | 1.40% |
他には、項目6、7を見てください。
6.就職活動を始めた頃の志望業界と現在の志望業界
就職活動スタート時点 | 現在 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
rank | point | 前年比 | rank | point | 前年比 | |
9 | 239 | -33 | 5 | 36 | 5 | -29 |
7-1.就職活動を通じての各業界に対するイメージ変化(文理男女合計)
良い方向に変わった | 悪い方向に変わった | |||
---|---|---|---|---|
2008卒 | 2007卒 | 2008卒 | 2007卒 | |
12.00% | 6.20% | 13.10% | 4.60% |
※昨年と集計方法を変更しております。昨年の数字は参考データとしてご覧下さい。
項目6:ランクは比較的高く、就活前後でUPしているのですが、志望度が前年比ガタ落ちです。
項目7:ここでは、年別に見ます。2007年は「良い方向に変わった」が「悪い方向に変わった」よりも多いのに対して、2008年は逆転しています。
これを見ると、本当にイメージは悪化しているのかもしれません。
以上をまとめると、
イメージは悪化しているが、エントリー率、受験率は、思ったほど悪くない。
理系男子、文系男子のエントリー率は低下。逆に、女子のエントリー率・受験率は増加。
他、特筆すべきは、8-1.プラスイメージ調査(各項目についてプラスイメージを持っている学生の比率):文理男女合計で、「将来性1位」に対して、「安定性30位」になっていることでしょうか。これは、ベンチャーのイメージに引っ張られていますね。他のデータがという注意書きの通り、参考程度しか使えません。
(優秀な学生の割合)×(採用の成功率)×(内定の承諾率)
この辺は、正直、わからない。が、苦戦しているのが本当だとしたら、企業が求める“優秀な学生”の絶対数が減っている、もしくは他に取られているのかもしれませんね。
とりあえず、いまはここまでで、一端休憩。
終電(汗)